16 アヤたちの戦い
アヤはジャンに抱えられていた間、黙っていた――が、
魔力を全身に巡らせて自己回復を図りながら、左手にはずっと力を溜め続けていた。
あの魔族を――打ち倒すために。
そして、チャンスが来た。
ノックでジャンの体を後方へ吹き飛ばす。
同時に、アヤは足元に力を込めて跳び出す――
「ノック・スピア!!」
力を溜めた貫手が繰り出す、高速の一点突破。
それを魔族は、初めて避けた。
「これは、効きそうだな」
アヤは、わざとらしく挑発的に言い放った。
その一言に、魔族の表情がわずかに歪む。
瞬間、殴りつけてくる。
アヤは咄嗟に両腕を交差してガード――しかし、耐えきれず吹き飛ぶ。
「……当たれば、の話だがな」
魔族が冷たく言い放ち、間髪入れず追撃。
そこからは、圧倒的な身体能力を誇る魔族との格闘戦が始まった。
アヤは必死に喰らいつき、応戦する。
だが、戦いの中で、ふと――違和感が芽生える。
(この魔族、スピードとパワーはすげぇが、技術がない…)
だから、動きが読める。だからこそ、アヤでも応戦できている。
(それにこいつから感じる魔力、明らかに魔導士タイプ……なんで、炎の魔法を使わねぇ?)
(奴ならさっきの火球を何発でも撃てるはずだ。)
疑問を抱えつつ殴り合う最中、頭上から色とりどりの矢が、魔族に降り注ぐ。
バチッ――!
魔族の全身に、瞬間的な電流が走った。
「奴の弱点は雷だ!!」
ジャンの叫び声が響く。
それに応えるように、魔族の後ろから一人の大男が現れる。
「《雷墜》」
ズドオォン!!
重々しい雷鳴のような轟音が響く。
大地を揺らすような一撃と共に、
その雷鳴の中から現れたのは――ギルド長、ガロスだった。
巨体に似合わぬ速さで、斧を振るうその姿に、場の空気が一変した。
「チッ!避けたか」
魔族はその一撃を横へと軽く回避していた。
「そんな大振り、当たるわけなかろう」
冷ややかに言い放つ魔族を、アヤは睨みつける。
(俺が動きを止められていれば…!)
アヤは、ガロスの接近に気づいていたが、魔族を足止めできなかったことに悔しさを滲ませる。
「回避を許しちまった。次は止める!」
「アヤか。よくやった!後は任せろ!」
ガロスが一歩前に出て、アヤを下がらせようとする。
「嫌だね。」
「お前には未来がある。ここは下がれ!」
「断る!」
「この、頑固者が……!」
アヤに苛立ちながらも、ガロスの視線は一瞬たりとも魔族から逸れない。
「その炎の翼、貴様7年前に現れた魔族か!」
ガロスが目を細め、斧を構え直す。
ガロスのその発言を聞いた魔族はニヤリと笑う。
「そうだ。我はバラガン!人間どもを、絶望に堕とす者だ。」
ガロスが顔をしかめる。
「何の目的で、こんな町を……!」
「目的? くだらん。ここは、光の女神の加護を受けた子供の生まれた地だろう?」
「まさか、それだけの理由で……」
「フハハハハ! それだけで十分だ!」
狂気をはらんだ笑い声が、辺りに響く。
「光の加護など、滅すべき呪いよ。貴様らは、その贄だ!」
「ふざけたことを言うな!!」
アヤが咆哮し、手に力を溜める。
――回収は完了しました。あとは任せますよ。――
頭の中に響く声に、バラガンの口元がわずかに吊り上がる
「フン。話は終わりか?」
バラガンが天を指さす。
「《ヴォルクス》」
炎の玉が打ち上げられ、そして分裂――
上空から、まるで隕石のような火塊が町へ降り注ぐ。
噴火。
それはまさに、町全体を飲み込む破滅の火山のようだった。
「貴様っ!!」
怒気を含んだガロスの咆哮と共に突撃。
「《インフェルノ》」
バラガンがガロスに向けて手をかざし、炎が迸る。
極大の火炎が、ガロスを飲み込んだ。
「ぐあぁっ……!」
転げながら逃れるガロス。地面に焼け焦げが走る。
「…!このっ!」
ガロスが立ち上がり、再び突撃する。
(くそっ……なんで今なんだ……!?)
今までは、まるで遊びのようだった。
それが――なぜこのタイミングで、炎の猛攻?
アヤの胸に疑念が膨らむ。
(名乗り上げたから?…ダメだわからん。それに、そんなことを考えてる余裕はねぇ!!)
「さっさと死ね。《デトナス》」
爆炎魔法。ガロスとアヤごと辺り一帯を焦がす衝撃の中、アヤは素早く躱し――突撃した。
(てめえの腹に風穴、開けてやる!!)
その時ーーー電光石火の如き、雷の矢が、バラガンに直撃する。
バチィィン!!
雷光が炸裂し、魔族の右肩を穿った。
その体が一瞬、ビクリと硬直する――
(ジャンだ!)
その隙を逃さず。渾身の貫手を放つ。
「ノック・スピア!!」




