15 ジャンの戦い
アヤと魔族が空中で激突しているその頃――
町では、無数のガーゴイルたちが狂ったように暴れ回っていた。
だが、次々と魔法の矢が撃ち込まれ、その群れが崩れていく。
「くそっ、多すぎる……!」
屋根の上から矢を連射するのは、ジャン。
文句を漏らしながらも、その手は止まらない。
精密に狙い澄ました一撃が、ガーゴイルの頭部を撃ち抜いていく。
視界にいるガーゴイルをすべて片付けた瞬間――ジャンの目が、空を向いた。
高く、遠く。見上げたその先で――
燃え上がるような炎の翼と、圧倒的な威圧感。
そして、その魔の中心へ向かって、突き進む小さな影。
「……おいおい。マジかよ……」
あれに挑むなんて、正気の沙汰じゃない。
だが――
「まさか……アヤ!?」
脳裏に浮かぶ、好戦的な小さな子供。
ジャンはすぐさま走り出した。少しでも距離を詰めるために。
俺の矢なら、あそこまで届く。だけど、ここじゃ遠すぎる。
「間に合え……!」
瓦を蹴り、屋根を越えて跳ぶ。
その手には、最も威力のある一射が、すでに番えられていた。
しかし――ジャンの願いもむなしく、
空を裂いた巨大な炎が、小さな影を無情にも呑み込んだ。
「くそっ……!」
間に合わなかった。
矢を握った手に力がこもるが、もう狙う意味はない。
ジャンはすぐさま矢をしまい、全力で走り出した。
――落ちてくる、勇敢な戦士を受け止めるために。
落下してくる姿を見て――ジャンは確信する。
どう見ても、子供の背格好。
あんな上空まで飛べるようなガキなんて、ひとりしかいない。
「アヤ……! 嘘だろ……!」
最悪の予感が、見事に当たった。
ジャンは走り、そして跳んだ――
「アヤァ!!」
空中でその小さな体を受け止めた瞬間――
「ぐはっ!!」
自分の胸に重さと衝撃がのしかかる。だが、構ってる暇はない。
「……まだ、息がある!」
脈を確かめ、すぐさま腰のポーチに手を突っ込む。
「ポーションだ……飲め!!」
意識があるかどうかも分からぬまま、無理やり口に流し込む。
それでも、アヤは――喉を鳴らして、飲んだ。
「が……はぁ、はぁ……助かった……」
「おまっ……不死身かよ、お前!!」
あんな炎を喰らって、まだ生きてる――
ポーション一つで蘇るなんて、こっちが気絶しそうだ。
それでも、ジャンは心底、安堵していた。
「ほう……まだ生きているのか」
低く、どこか愉しげな声。
「っ!!」
災厄が――降りてきた。
燃え盛る炎の翼が、ゆっくりと降下してくる。
ジャンはアヤを抱えたまま、反射的に走り出した。
(無理だ……どう足掻いても、あんなの相手になるわけがねぇ!)
背後で、風が唸る。
魔族の翼が激しく燃え、音を立てて加速する。
「――どこへ行こうというのだ」
「くそっ!!」
逃げ切れないと悟った瞬間、目の前に――
邪悪な笑みを浮かべた魔族が、立ちふさがる。
絶望的な状況、アヤを抱えたまま戦えるわけもなく
(どうする?)
そう思案していると、アヤがジャンを後方に吹き飛ばした。
「な?!」
ジャンはそれに衝撃を受けていた。
アヤの小さな体が、魔族へと立ち向かう。
(アヤ……お前、あんなの相手に……怖くねぇのか?)
(何でそんな目で立ち向かえる!?)
炎に照らされた横顔に、恐れはなかった。あるのはただ――戦意。
「ノック・スピア!」
アヤの更なる技が、魔族に放たれた。




