14 アヤの戦い
二本の角、青白い肌、黒い眼球に、赤い瞳孔。
(――間違いない。魔族だ。)
だが、相手がなんであろうとアヤには関係なかった。
(その余裕たっぷりなツラを、ぶん殴る。それだけだ!)
アヤが空を裂いて迫ると、魔族はちらりとこちらを見やり――まるで虫でも払うように、片腕を振った。
(さすがに、それは舐めすぎだ……!)
瞬間、ノック発動。
膝下に力を集中し、軌道を僅かに逸らして接近角度を変える。
そして――
ドゴォッ!!
拳が、魔族の顔面を正面からとらえた。
重い感触。確かに手応えはあった。
だが――
「チッ!」
アヤが舌打ちを漏らす。
殴った手がわずかに痺れる。悔しさが込み上げてきた。
(こいつ……わざと喰らいやがった!)
顔を傾けたまま、魔族はゆっくりとこちらを向く――口元に、不気味な笑みを浮かべながら
「面白い技だな。……ふむ、もっと見せてみろ」
(観察してやがる……!)
苛立ちが爆発した。
「お望み通り……見せてやるよ!! だああああああ!!」
拳を振るい、さらに連撃を叩き込む。
ノック。ノック。ノック!
一撃ごとに、押し出す力が空気を震わせ、拳が風を裂く。
だが――その度に、魔族の笑みは深まっていった。
全て――顔面に一点集中して殴っている。
だが、どれだけ打ち込んでも、まるで効いた様子がない。
「……これならどうだ! ノック・バースト!!」
レオの加護の防御すら打ち破った、アヤの切り札。
両足に押し出す力を重ねて加速し、拳に一点集中。
渾身の一撃が、魔族の顎を撃ち抜いた――!
ゴガァン!!!
爆風のような衝撃が空気を裂き、魔族の体がわずかに仰け反る。
(よし――! 今のは効いた!)
そう思った瞬間――
「……少し、痛かったぞ」
魔族が、口元の血を親指でぬぐいながら呟く。
「……くっそ!! これでもダメか!」
アヤは一旦距離を置き、次の手の準備をした。しかし
魔族の目が――僅かに細められた。
「……もう、いいか」
魔族の手が、軽く振られた。
「《デトナス》」
瞬間――凄まじい魔力が、炎へと変わり、凄まじい熱が渦を巻き、視界のすべてが、炎に染まる。
巨大な火球が、逃げる間もなくアヤを呑み込んだ。
「っが――――!!」
爆音。灼熱。衝撃。
咄嗟に腕を交差させる――が、防ぎきれるはずもない。
焼ける痛みが、皮膚も、肉も、意識すら貫いていく。
爆炎の余波に押されながら、アヤの体が――無防備に落ちていく。
意識は朧げで、落ちていることすら曖昧だった。
今日4話投稿+日付変わったら一章ラストを投稿します。




