13 メルの戦い?②
「残念ね。」
どこからともなく――静かな女の声が、誰もいないはずのこの場に響く。
「貴様……何者だ!!」
「あなたが攻撃しようとした者よ。」
それを聞いたバスクは、これが最悪の状況に追い込まれていることを悟った。
「くっ……! これは……なんだ!?」
「あら? わからないの? 幻術魔法あなたは――幻に囚われているのよ」
「フン! 敵に手の内を明かすとは愚かなり! 幻だと? ならば、この辺り一帯ごと――破壊すればいいだけだ!!」
バスクは吐き捨てるように言い放ち、鋭い目で周囲を見回す。
「それは無理ね。」
「なに……!?」
「だって――あなたはもう、死んでいるから」
「何をしてやがル!??」
叫んだのはガランだった。
理解を超えた光景に、彼も混乱していた。
それは、レオも騎士たちも同じだった。
バスクが、突如召喚した巨大な剣とともに――
自らが操っていたすべての武器を、バスク自身に浴びせたのだ。
誰にも、何が起きたのか分からなかった。
バスクは馬車を攻撃したつもりで、自らを貫き、
そのうえ、自分が死んだことにすら気づいていなかった。
それほどまでに恐ろしく、強力な幻術魔法が――メルの魔力暴走によって発動していたのだ。
そして、それに気づく者は、一人としていなかった。
魔力暴走をしたメルは、魔力が尽きたのか、馬車の中で眠るように気絶していた。
理解はできなかったがバスクは死んだ。これで大勢は決した。
残るは、ガラン――そして数体のガーゴイルだけ。
「クク……ククク……ヒャァーハッハッハ!!」
突然、ガランが狂ったように笑い出した。
その笑いは、あまりにも異様だった。
目は見開かれ、焦点が合っていない。
口元だけが引きつったように動き、空気を切り裂くような嗤いを響かせる。
そして、血塗れのまま――レオに向かって突撃してきた。
だがその動きは、明らかにおかしかった。
重心も、歩幅も、感情もない。まるで“誰か”に引かれているような――操られた人形のような動きだった。
「っ……来るぞ!!」
レオが構える。その異常を察知し、騎士たちも加勢。
そして――一斉に刃を振るった。
その一撃が、ガランの胸を貫く。
だが――ガランは、最後まで笑っていた。
「オ前……勝っタつモリカ……?」
その口が、かすれた声で続ける。
「オ前ノ故郷のお友達……今頃、ドうナッテるダろうナァ……?」
「……なに……? 何をした!!」
レオが叫ぶ。だが、返ってきたのは――
「ア……ヒャ……ッハ……」
その意味を告げぬまま、ガランは――地に沈んだ。
「あーあ、加護の少年、殺せなかったねぇ~」
「そうですか」
「えー? 冷たーい! 」
「……あなたは相変わらず愚かですね」
「なにぃ!? どういう意味ぃ!?」
「目的は果たしました。彼の生死など、本来どうでもいいでしょう」
「あれ? そうだったっけ?」
「……はぁ。まったく、それに彼が勇者の器なら、あの程度で死にませんよ」
「うーん……そうなの?」
「やはり、能力以外は使い物になりませんね」
「むっ! そんなこと言う人には、こうだっ!」
「無駄ですよ。私には効きません。さぁ、さっさと済ませますよ」
「えっと、なにやるんだっけ?」
「今から説明します。このおバカさんに説明するので、もう少しお待ちください。オリサさん」




