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トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
1章 プロローグ
12/92

12 メルの戦い?①

馬車の中、メルは固く拳を握りしめていた。


レオが飛び出していってからも、彼女は馬車から一歩も出られなかった。

外に出ても自分には――戦う力が、なかった。


だからこそ歯がゆかった。

レオが戦っている。あんなに恐ろしい魔族相手に――命を懸けて。


自分は何もできないまま、ただ見ていることしかできなかった。


「……っ」


馬車の周囲では、騎士たちが必死に戦っていた。

馬車を、私を守るために。


(お願い……死なないで……)


目を閉じても、耳を塞いでも、外の音がすべて伝わってくる。

剣戟の音、怒号、不快な魔族の声。

そして――レオの叫び。


レオが倒れた時、メルの視界が暗転した。


(レオ……レオ!?)


息が苦しい。胸が痛い。

でも――レオは立ち上がった。


剣を掲げ、再び魔族へ立ち向かっていく。

その姿に、安堵と歓喜と、それ以上に言葉にできない不安が押し寄せた。

まるで心が千々に引き裂かれていくようだった。


そして、レオは勝った。


あの恐ろしい魔族を――打ち倒したのだ。


(やった……! レオが……やったよ!)


歓喜が胸に満ちて、思わず涙がにじむ。

でも――それもほんの一瞬だった。


「……うそ……」


レオに、もう一体の魔族が襲いかかる。

そして、倒したはずの魔族までが、立ち上がる。


(なんで……どうして……)


さらに。


自分を守ってくれていた騎士の一人が――叫びながら突撃した。


「あ……!」


剣を振るう彼の姿が、まぶたに焼きつく。

バスクの操る武器が殺到する。

それでも騎士は止まらなかった。


(やめて……! だめ!!)


祈りは届かず、騎士は――その命を散らした。


「いやあああああああ!!!」


絶叫が、馬車を震わせる。


(なんで……なんでこんなことに……)


(私に……)


「私に……!」


(もっと……!)


「もっと……!」


(「力があれば!!」)


その瞬間、メルの中で何かが――はじけた。


体の奥底から、熱が噴き出すようにこみ上げる。

胸を焼き尽くすような想いと一緒に、膨れ上がる、紫の瞳が妖しく輝き、暴れ出す――魔力。


そしてメルは、何者かと重なり合った。




「なんだ……? この魔力は」


バスクは、戦場に満ち始めた異様な気配にいち早く反応した。

馬車の中にナニカがいる。それを悟った瞬間――バスクの判断は、速かった。


「《エグゼキューター》!」


その声には、焦燥と――本能的な恐怖が混じっていた。


命令と同時に、周囲に漂っていた全ての武器が殺到する。

そして、バスクが切り札として温存していた、一際巨大な黒剣が召喚され――空気を裂き、標的へと突き刺さった。


瞬間、世界が沈黙する。

地響きすら一瞬遅れて届くほどの破壊音が、戦場を呑み込んだ。


バスクは全力をもって仕掛けた。それほどの異様な魔力だった。だが、それも今ので終わらせた。


静かに右手を下ろす。空を漂っていた武器が、命令を解かれたかのようにゆっくりとその場に浮かぶ。

そして、煙の晴れた先――


「……なっ……!」


崩れた馬車が現れるはずだった。馬車を攻撃したのだから。


しかし、そこにあったのは――魔族、ガランの亡骸だった。


「どういう……ことだ? 馬車を……確かに、馬車を攻撃したはずだ……!」


それだけではない。


その場にはもう、騎士たちの姿も、加護の子供の姿もなかった。

馬車ごと、まるで幻のように、すべてが――消えていた。

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