11 レオの戦い②
敵が武器を受け取る“瞬間”。そこに生まれるわずかな隙を狙う。
レオはその未来を見て、大きく後退した。
「……!!」
ガランは二本の剣を手にすると力を増した。
さきほどレオが隙をつこうとすれば、やられる未来が見えた。
ガランが鋭く舌打ちする。
「バスク!!さっさとゴミ共を片付けろ!!」
「…わかっとるわ!!」
バスクが地上へと視線を落とす。そこでは、数人の騎士たちが果敢に戦線を保っていた。
彼らは王国騎士の中でも精鋭。冒険者で言えばAランクパーティに相当する実力だ。
だが、彼らの真価は攻めではなく――守り。
仲間と民を守るための陣形、受けの型、盾の構え。すべてが訓練され尽くされていた。
それでも、バスクは問題ないと見ていた。
バスクの役割は足止めに過ぎない。真に狙うのは、加護を得た子供。レオだ。
(あの子供が想定外に力を増して、ガランは焦っているようだが、
あやつが本気を出せば勝てる相手だ。)
「まったく、遊び好きめ……」
「さぁて、攻守交代ダァ!!」
叫びと共にガランが踏み込む。二本の剣を操る双撃が、レオに襲いかかる。
速い――剣と剣が交わる。強い――力も速さも増してしまった。
また、振り出しに戻ってしまい、このままではまたやられてしまう。
レオは未来を視る。来る。右の斬撃、続いて左が脇腹を狙う。
――退けば、避けられる。だが、それではもう勝てない。
「はああああああ!!!!」
レオは退かない。
来ると分かっている刃を無視して力押しの勝負に出た。
「な!?!」
ガランが驚愕する。
二刀流の弱点を、レオは、攻めた。
左手の剣――その攻撃は甘い。力も速度も、右手よりわずかに劣る。
だから受けられる。そして――押し返せる。
(この一撃で――終わらせる!!)
――だが、ほんのわずか。レオの力は足りなかった。
刃を止めた腕が、きしむ。無視した刃が、レオの脇腹に斬り込む。
「《ブレイブ――!」
この技では、届かない未来が、レオには見えていた。
刹那、脳裏に浮かぶのは、決して諦めないアヤの姿。
「”ノック”ソード》!!!!」
レオの剣が爆ぜるように輝く。
眩い光が風を巻き、戦場に雷鳴のような衝撃音が轟いた。
自身の技と友の技を合わせた一撃が、ガランの剣を粉砕し、その巨体ごと切り裂いていく――!
(なんだと?!)
これを見ていたもう一体の魔族、バスクが驚愕する。
あのガランがやられると思っていなかったのだ。
(だが、まだ負けておらぬ!!)
レオも無事ではない。左の脇腹に、深々と斬撃を喰らったのだから、バスクは全ての武器を向かわせる。
「くっ――!!」
「させるかぁあああ!!」
地上の騎士たちが反応する。盾を構え、剣を掲げ、必死にバスクの武器を止める。
しかし、いくつかの武器はすり抜け、レオを襲う。
「死ぬかと思ったぜェ!!はぁはぁ」
「生きておったか。」
「……グッ、こいつ……まだ……!」
崩れ落ちたと思われた魔族ガランが、血を流しながらも起き上がる。
さすがのバスクも焦ったが、時間を稼いでガランの回復を待つ。
その姿を見た一人の騎士が、目を見開いた。
「今の内だ!仕留める!!」
騎士が叫び、命を賭して突撃した。
「うおおおおおぉぉ!!」
「バスクッ!!」
「見えておるわ!!!」
バスクが即座に反応。
浮遊する無数の武器が、その騎士へと一斉に襲いかかる。
だが――止まらない。
騎士は、それすら無視して突っ込んだ。
(届けばいい、届けば……!)
その渾身の一撃が、確かにガランを捉えようとした――だが。
「ぐっ……!」
ガランはよろめき、避けようとして足を取られた。
それが幸いし、騎士の剣は空を切る。
「あ、あぶねぇ……」
その直後、騎士の全身に突き刺さる無数の武器。
「……ッ!」
騎士は、バスクの武器によって串刺しにされ、その場で絶命した。
「いやあああああ!!!」
悲鳴が響く。
剣を握ったまま崩れ落ちた騎士の姿が、戦場に静かな衝撃をもたらし、一人の少女が暴走した。




