1 アヤとレオとメル
1話目をリテイク?再投稿しました。
アメリオ王国の片隅、小さな町エルナ――
その町外れに建つ孤児院は、シスター・クレイシアがひとりで切り盛りしている、小さな場所だった。
ある日の夕暮れ時。
暖かな夕陽が窓から差し込む中、集まった子どもたちに、クレイシアは優しい声で御伽噺を語っていた。
「むかしむかし、光の女神ルセリア様から加護を授かり、勇者となって魔王に立ち向かい――」
クレイシアの語りに、五歳の三人の子どもたちの瞳は輝きを増した。
「勇者と魔王、どっちもつえぇ! 俺も強くなりたい!!勇者も魔王も超えて最強になる!!」
茶髪で茶色い瞳の少年、アヤが声を弾ませて宣言する。
「わたしは、えーっと……アヤと、けっこんする!」
隣で聞いていた、長い黒髪に紫の瞳の少女、メルが突然の告白をした。
「えぇっ!? なんでそうなる!?」
驚いたアヤが目をまんまるにする。
メルは照れながら答えた。
「えっと、アヤ、かっこいいから…?」
「うーん……強いとかっこいいからな! わかった!」
アヤは純粋にその言葉を受け止める。
「やくそくだよ?」
「約束だ!」
メルは嬉しそうに微笑み、小さな手を差し伸べる。
それをアヤはぎゅっと握りしめて、少しだけ照れ隠しに笑った。
そしてもうひとり。
金髪に碧い瞳の、可愛らしい少年レオは――
二人のやり取りに全く反応せず、絵本に描かれた、美しい光の女神ルセリアの姿をじっと見つめながら、静かに呟いた。
「この人……光の女神さま? すごくきれいだなぁ……」
三人の胸に小さな約束と憧れが宿る。
アヤは強くなるために、特訓をしていた。
アヤは全力で走っていた。汗だくで、息も絶え絶え。それでも足を止めなかった。
とうとう限界がきて、アヤの足ががくんと崩れて倒れ込んだ。
「ぜっはっ……まだ……まだいける!!」
すぐ起き上がり、さらに全力疾走をする。しかし、それも数秒で倒れ、今度は意識も失う。
「アヤっ!?」「アヤ!!」
メルは純粋にアヤが倒れたから心配したが、レオは死んだのでは?と思い、走る。
「アヤ!!死んでないよね?!」「ねぇ、大丈夫なの?アヤは……」
レオの異常な心配に、不安になるメル。
だが――
「……ぐはぁ!はぁ…はぁ…もう一回っ!」
むくりと起き上がったアヤが、すぐにまた走り出してしまう。
「……はぁ、光の女神ルセリア様、アヤを守ってください。」
レオはその姿に呆れ女神に祈った。
「アヤ、すごいね!」
「メルも女神様に祈るといいよ。」
「?うん!」
メルは純粋にアヤを称賛し、よくわからないが、神にお祈りをする。
――それからというもの、アヤの“自主特訓”は日に日に過激になっていった。
ある日は、火の上に差し出した自分の手をじっと見つめて
「……ぐっ、くそ、耐えろ……俺は最強になるんだ……!」
「大丈夫なの?あついよ??」
「ルセリア様……」
そんな無茶な訓練の日々を過ごす。レオが安心できたのは瞑想の時だけだった。
六歳になった頃、その日はある特訓をしていた。
ドン、と鈍い音が鳴る。木がぐらりと揺れ、そして――倒れた。
「できた……!どうだ俺の技!」アヤが叫ぶ。
「わあ……!すごーい!」
純粋に感動して拍手するメル。
「……すごいね。ほんとに」
目を丸くして驚くレオは、少しの感動と、尊敬をアヤに抱く。
そして――時は流れ、三人が七歳になる年。
孤児院の玄関前で、クレイシアがいつもより神妙な表情で言った。
「今日は、加護の儀の日ですね。三人とも、準備はいいですか?」
三人とも思い思いに頷く。