1ー2 声、吐息、腕を組む
* 腕を組む
五分後。
戻ってきた僕は、またも席に着いた。
「ごめん、だいぶ待たせたね」
「今回はさっきより少し時間がかかりましたね」
「うん。これから説明することはさっきまでよりレベルが高めだから安易に反応しないように、三回戦ほどしてきたよ」
「?
五分で三回……。最初は二分で、次が三分で……、え、ペースアップしてます?」
「ギアチェンジ、というやつだね。
今日はこれが最後になりそうだから、ちょっと気合を入れてきたよ。
まあ不知火さんがエッチだったおかげですぐだったよ。自信を持っていい」
「ここまで褒められて嬉しくないなんて……こんなの初めてです」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!
「こんなの初めてとか言うから。それは未知なるエッチなことをされて乱れちゃった後に出てくるセリフだよ。
まったく、人がされた嫌なことをしてはいけないと言うだろう。
同じように、自分が興奮するような言葉を要っちゃダメだぞ」
「私はまったく興奮しませんけど!?」
僕は深呼吸をして呼吸とちんちんを落ち着かせると、改めて三つ目も行為について説明をする。
「話しているうちに増えていったけど、三つ目だ。
不知火さん、腕を組むという行為はあまりにもスケベすぎるんだよ」
僕は椅子に浅く座って足を組み、腕を組みながら言った。
「絶賛先輩も腕を組んでますけど……」
「僕の場合はいいんだ。
でも不知火さんの場合、おっぱいがある」
「な、ちょ!」
不知火さんが恥ずかしがるように自分の体に腕を回し、胸を隠す。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!
「まったく、また誘惑か。僕じゃなかった、君は今日十回は射精されていてもおかしくないよ?」
「普通は一日十回も出ないのでは……?」
「とにかく不知火さん、君は腕を組む行為禁止だ。後、胸を隠すような所作もだめだ」
「なんでですか?」
「腕を組むとさ、脇が閉まるだろ?
ってことは、体の側面にある肉が寄るだろ?
不知火さんは胸の下で腕を組むから、おっぱいが強調されるだろ?
もうね、『私にパイ擦りさせてください』と言っているようなものだよ。
巨乳を自覚したまえ」
「なんだか理不尽なことを言われている気が……」
「理不尽なものか。
ならもう一回腕を組んでみろ」
「……では」
不知火さんが腕を組む。すると先ほど指摘した通り、胸が強調される。
ガン! ドタン、バタリ!
「机が!」
「ほら、君が腕を組んだ結果、机が犠牲になった。
もしここにあったのが机じゃなくて君の体だったら、刺されて死んでいたよ?」
「それについては凶器を持っている方が悪いと思いますけど」
「というわけで普段から腕は組まないで、こう、相手を興奮させないようにするのがいい」
「なら私は普段、手をどこにおいておけばいいんでしょうか?」
普段の手の置き場、か。
「右手でスマホ、左手はポケット、とか?」
僕の言葉を受け、不知火さんが実践する。
……。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
「なんでですか⁉」
「思ったよりスケベで。瞳にスマホの画面が反射して、なんだか催眠アプリをかけられているときみたいな感じだったから」
「まさかのスマホNG」
「んー、正解が分からないから、ちょっといろんなポーズをとってみようか」
「わかりました」
「検証用に動画撮るけどいいかな?」
「いいですよー」
それから、不知火さんは腕をいろんな位置に持っていく。
腕を交差して肩を掴んでみる。
後ろに回して胸を張る。
片方をだらりと伸ばし、もう片方の手で伸びた腕の肘を掴む。
右手を上げて肘を曲げて背中に置き、左手を右の肘に当てて軽く後方へ引く。
etc……。
気が付くと、窓からは赤みを帯びた日差しが差し込んでいた。
いつの間にやら時刻は五時過ぎ。
「どうです、先輩?
興奮しないポーズはありましたか?」
「残念ながら常在煽情、勃起が止まらないね」
「今更ですけど先輩の体ってどうなってるんです?」
「ちょっと勃起体質なだけさ」
「聞いたことのない体質……」
なんにしても、時間的に今日はこのあたりだろう。
「帰ろうか。
人を勃起させない手の配置については宿題だな」
「では、良い配置が思い浮かんだら動画で撮るので、先輩に送りますね」
「わかった。勃起採点するよ」
こうして話しながら、荷物をまとめて学校を後にした。
*
帰宅後のことだ。
帰りの電車でも不知火さんとほとんど会話していたので僕はずっと勃起していた。
なので家に着くなり一発抜いて、ようやく落ち着いて、その後はしばらくノー勃起タイムを過ごしていた。
食事を終え、宿題を終え、風呂を終え、歯磨きを終え。
すべきことを済ませたのでもう寝るだけと言ったところで、スマホが通知を告げる。
『これでどうでしょう?』
メッセージは不知火さんからで、動画とともに送られてきていた。
動画を開くと、Tシャツに短パンというラフな格好の不知火さんが歯を磨いていた。
……まずい!
僕は慌ててズボンとパンツを脱ぐ。
紙一重の差で勃起。
ちんちんが空を打ち抜いた。
「危ない危ない。勢い良く勃起してパンツを破るところだった」
過去五回、勢いよく勃起したことでパンツを破ったことがあったので、どうにか避けることができた。
「ただ、歯を磨いているだけなんだけどな」
どうしてこうもエロく感じるのか。
私服だから。背景の私室に興奮したから。口元から唾液が滴っているから。腕を動かすたびに胸が上下に揺れるから。
理由はいっぱいある。
でも、多分、一番は。
なんか、納得した。
『もしかしたら、僕は不知火さんの動画が僕のスマホに入ると思うと勃起するのかもしれない』
あの時、僕は彼女のポーズに興奮していたのではない。
彼女を撮影していたことに、興奮していたのだ。
だってなんか、写真に写る彼女ってAV女優みたいなんだもん。
今にも脱ぎだしそうというか、今にもそこでスケベなことが始まりそうというか。
『人を卑猥なものみたいに言わないでください』
『君は十分卑猥だよ
卑猥じゃなくなるように、頑張ろう』
返事を送ると、僕はスマホの画面を暗くして充電する。
それから一発抜いて、僕は眠った。
今日は久しぶりに、たくさん抜いた気がするな。