1ー1 声、吐息、腕を組む
雑談
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誘惑ポイントの発見
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勃北見のバカすぎるスケベ理論
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改善策の提案
↓
実践
↓オチ
大体こんな流れです
放課後。スケ部の部室にて。
先日同様、テーブルを使って斜めに位置して座る。
そしてさあ雑談を始めましょうとなったところで、僕は言う。
「まず、不知火さんは声からしてスケベニズムが漂っていると思うんだ」
「声、ですか?」
「うん。例えばそうだな……、ささやくような感じでスマートフォンって言ってみて?」
「わかりました。……コホン」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
「ひゃい!? なんですか、いきなり?」
突然の音に驚く不知火さん。
それに反応するように、テーブルはがたがたと震えてカタカタと音を出し続ける。
「ぽ、ポルターガイスト……?」
不知火さんが顔を青くするが、僕は原因を知っていた。
「ごめん、ちょっと勃起しちゃって」
「ぼっ……。その、それってそんなに音が出るものなんですか?」
「机に当たって当たって音が出ているだけだよ。ドラムスティックと同じ原理さ。僕はこれをペニドラムと呼んでいるよ」
「男の人って大変ですね」
「まあ気を取り直して言ってみてよ、スマートフォンって」
「では……、スマートフォン」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
「ふむ、なかなかの勃起誘発ボイスだ。
聞いているだけで勃起が止まらないよ。君のクラスの男子の苦労がうかがえるな」
「私の声そんなにですか!?」
「とりあえず、不知火さんはまず声がスケベだ。
男が大好きな声だ。エッチな同人音声作品を販売したら億万長者になれる声をだと思う」
「その感想は……複雑ですね」
ため息とともに、と腕を組んで首をかしげる不知火さん。
その瞬間だ。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
「ひっ、またですか⁉」
「まったく、呆れて声も出ないよ」
「声の代わりにいろいろ出てるじゃないですか!
絶賛ドラミングしてるじゃないですか!」
「おいおい。『色々出てる』なんてスケベなことを言わないでよ。本当に出たらどうするんだ」
「もう私どうすればいいんですかぁ!」
多分、いろいろかみ合っていなかった。
「やれやれ、とりあえず僕は性欲を処理してくるから、ちょっと待ってて」
*スケベ項目をまとめる
二分後。
性欲を処理してきた僕は部屋に置かれたホワイトボードに、僕は今回の勃起誘発コンテンツをまとめた。
「じゃあ早速だけど」
「ちょっと待ってください」
「どうしたの?」
「あの、性欲を処理すると部屋を出てから二分くらいしか経っていないですけど」
「そうだね」
「二分なんで処理したんですか?」
「僕はアスリートだからね」
「は、え?」
ガタつくように首を傾げる不知火さん。どうやら二分で終わったことを不思議がっているらしい。
「なぁに、不知火さんが僕を臨界点ぎりぎりまで高めてくれたからね。簡単だったよ」
「そんなことしてないですけど⁉」
「無自覚とは恐ろしいね……」
ため息をつくと、僕はホワイトボードに視線を向けた。
「というわけで、今回不知火さんが僕を勃起させた、すなわち誘惑した要素はまとめてみたよ。
一つ目、声。
二つ目、吐息。
三つ目、腕を組んだこと。
この三本柱だ。
あぁ、柱って言うのはちんちん三本って意味じゃないから勘違いしないでね」
「そんな勘違いしませんけど、具体的にどういうことか教えてもらってもいいですか?」
* 声
「じゃあまず一つ目だけど、最初にも言った通り不知火さんは声がエッチだと思うんだ」
「そんなにですか?」
「あぁ。君と電話したら何を言われても勃起できる自信がある」
「最悪の自信です」
「というわけで、もう少し、こう、相手を欲情させない声を意識した方がいい」
「欲情させない声……、こうですか?」
やや低めの疲れたOLのような声色だが。
「スケベ含有率34%。ぎりぎりだね。ギリギリアウトだ。おかげで緩やかに勃起してしまったよ」
「人の声に謎の成分を含めないでください」
「思うに、トーンがダメなんだと思う」
「トーンとは?」
「語尾が上がっていて女の子女の子しているというか、誘っている感じがにじみ出ているというか。ほら、喉が渇いているとかすれたような声になるだろ。そんな感じで精子を求める声というか、そんな感じ。君、サキュバスなの?」
「人の声に変なものを求めさせないでください。後サキュバスでもないです」
「これは逆転の発想なんだけどさ。例えば、あえてめちゃくちゃ誘惑するようにしたらどうなるんだろう?
ほら、わざとらしい誘惑は冷めるじゃない?」
「じゃない? ってさも当たり前のように言われてもわかりませんが、ちょっとやってみますね」
改めて、ん、んと喉を鳴らして軽く僕を勃起させてから、不知火さんは僕の耳元で湿り気を帯びた声でささやくように続けた。
「せんぱい、これだと、どうですか?」
……。
ドンッ! ガタン!
「ひゃ⁉ わ、机が!」
突如、机が横転した。まるで下から何かにつき上げられたかのように。
「どうやら、不知火さんは意図したらより凶悪に……、いや、凶エロになるらしい。
勃起率96%。
ここまで勃起したのは久しぶりだ」
「この机、十五キロぐらいあるんですけど。それを倒すって……、え、凶器とか仕込んでます?」
「仕込んで、なんてスケベなことを言っちゃだめだ」
「一般単語ですよね⁉」
困ったな、この後輩。
スケベ含有率が高すぎるぞ?
「やれやれ。とりあえず、僕は今の不知火さんのドスケベボイスで臨界点を突破してきそうだから、いったん処理してくるよ。
多分一度落ち着くから、続きはその後だね。悪いんだけど、机直しておいてくれない?」
* 吐息
三分後。
部屋に戻ってくると、不知火さんが机も不知火さんも最初の位置に戻っていた。
「ごめん、お待たせ」
「ほとんど待ってませんけど……。
というか三分って、その、二回目なのにお速いんですね」
「アスリートだからね」
「全国のアスリートに怒られますよ……?」
おそらく今後定番になるであろうやり取りを済ませてから、僕は席に着いて本題へ。
「とりあえず、声の問題は置いておこうか。
でも少し低めの声で話すとスケベ濃度が下がるから意識してみてね。それだけで周囲を勃起させなくなるだろうから」
「はぁ、それはわかりましたけど」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ。
「今度は何ですか!?」
「今のため息がエッチだったから仕方がないね」
「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」
「じゃあ二つ目に行こうか」
僕はちんちんを勃たせながらホワイトボードの前に立ち、二つ目の項目にアンダーラインを引いた。
「不知火さんは、ため息がエッチだ。
発情して逆レイプしてきそうな勢いを感じさせるね。
きっと多くの男子が、『不知火さんのため息ってセクハラだよね』と思っていることだろう」
「そう言われるとため息が出そうなんですけど」
「これの対処法は簡単だね。なるべくため息を出さないこと」
「出ちゃいそうなときは?」
ガン!
「ごめん、ちょっと勃起して、伸びたちんちんが机を押しちゃった」
「そんな如意棒みたいな……。
ていうか今のはなんで、その、大きくなってしまったんですか?」
「出ちゃいそうとか言うから」
「それ私が悪いんですか!?」
ツッコミを無視し、僕は席に座りなおす。
「とにかく、ため息が出そうな時だよね。
口を閉じて、鼻からため息を出すのはどうだろう?
多分ため息というか、呼吸するときの吐息がエッチだから、口を閉じて音を小さくすれば勃起フィールドをつくらなくなると思うんだけど」
「私の声、そんな能力者みたいな……。
では、えっと……」
不知火さんはため息をつくために空気を大きく吸って、
「ふーーん……」
そんな音とともに鼻から空気を放出した。
勃起は、しない。
「よかった、どうやら僕のちんちんも不知火さんの鼻息には勃起しないらしい」
全身ドスケベかと思ったが、ドスケベじゃない部分もあるらしい。
「本当ですか? じゃあ今後はなるべく鼻で息をするようにしますね」
口呼吸よりも鼻呼吸の方が体にはいいらしいので、これはいい解決策じゃなかろうか。
「ふんふんふんふんふんふんふんふん」
……。
「ふーふーふーふーふーふーふーふー」
……。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!
「またですか!」
「そんなに鼻息を荒くしたら、発情しているのかな?って思っちゃうからね。
鼻息はスケベレベル低めだけど、荒くなるとスケベレベルがマシマシになるってわけだ」
「呼吸も満足にさせてもらえなくなるなんて……」
「非スケベ女子になる道は遠いけど、君の呼吸音を聞いて勘違いしちゃう男子もいるだろうからね」
「うぅ、ただ呼吸をしているだけなのに」
「とりあえず、呼吸法には気を付けるように。
それじゃあ僕はもう一度性欲を処理してくるから、その後で最後のトピックについて話そうか」
言い残し、僕は部屋を一度出た。