0ー1 北見達樹と不知火無垢
頭おかしいやつの言動を見るのを楽しみましょう。
僕、北見達樹には悩みがあった。
それはあらゆるものにエロスを感じ、あっさりと勃起すること。
町中でかわいい女の子とすれ違っただけで、ズボンががっつりテントを張ってしまう。
軽く勃起するだけならいいのだが、困ったことに僕のちんちんはでかいのだ。
以前銭湯で86%の勃起をしたのをエクアドル人(勃起時平均ペニスサイズ世界一の国の人)が「Oh my god…」と言いながらその場で腰を抜かした。今まで見たことのないレベルだったらしい。
また強度や瞬発力も相当なものらしい。
中学生のときの理科の授業の実験中、突然70%の勃起をしてしまい、それが机を下から勢いよく打ち抜いて倒し、さらには接触部分をへこませた過去があるので否定はしきれない。
ちなみに翌日から僕のあだ名は「勃起パイルバンカー」、あるいは「ぼっき・ざ・ろっく」になった。
だが最初に悩みと言った通り、僕だってこんなにあっさり勃起はしたくない。
銭湯のときは「浴場で欲情するな」と言われて出禁になった。
理科の実験のときは女子からはドン引きされ、暗黒の中学時代を過ごした。
というか僕だって机にちんちんが勢いよく当たって痛かったんだぞ!
机にあたった衝撃でその場にうずくまってしまい、「センセー、北見君が勃起しました、セイシをさまよってます。勃起だけに」と言われて保健室へ運ばれたことだってあるぐらいだ。あの時は軽く死にたくなった。
人を殴ると、殴った側の拳だって痛いのだと、僕はちんちんで知った。
とにかく僕の勃起は危険すぎる。
だから、頑張った。
まずは勃起パイルバンカーの名前を捨てるべく、地元からから遠く離れた高校へ進学を決めた。
それから寺で修業をして、『性欲を男性器に隔離して、勃起の原因を理解する』ことに成功した。
いくらか試してみて至った結論は、男は勃起するものだ。
水が下へ流れるように、光が反射をするように、自然の摂理を捻じ曲げることはできない。
そもそも世の中には僕を興奮させるものが多すぎるのだ。
だから僕は、自信を誘惑し欲情させるものを理解することで、それを避け、勃起しにくくなるような修行をした。
例えば、遠くにいる女の子のブラウスの胸元の開いていたとしよう。
従来の僕ならそれをガン見して、あっさり勃起していた。
しかし進化した僕は、『あれは勃起誘発コンテンツだから見ないようにしよう』と冷静に理解し、目をそらすことができるようになった。
無意識の性欲を、意識ある性欲にすることで、避けられるようになったと言えばわかりやすいだろうか。
この思想を身に着けたことで、僕は過去になぜあんなにも勃起したのかを理解した。
女の子とすれ違ったときは、「今、彼女から発された空気が僕の中に入った実質セックスじゃんはい勃起! 今夜はお祭りどぴゅぴゅのぴゅー!」なんてことを無意識に考えていたのだ。
銭湯では、幼女がお風呂を駆け回っていたからだ。女児の裸があったら勃起は避けられない。僕のちんちんは感受性豊かだから仕方がない。
理科の実験時は、先生が試験管から臭いを嗅ごうと手を仰いでいたのが「欲情しておちんちんの臭いを嗅いでいるみたいだ」とつい考えてしまっていたからだ。
こうして僕は、勃起回避能力者になったのだ。
*
結果、僕の高校デビューは成功した。
おっと危ない。「高校デビューは成功」なんてスケベな言葉を使うなんて、初歩的なミスをするところだった。「高校デビューは成功」は「ここでビューッと性交」を連想させるニアスケベワードだ。
特に「ビュー」なんて同人音声では頻出の用語だ。こんなのを女子が言ったら勃起不可避、僕に射精を促していると言っても過言じゃない。
というわけで「高校デビューは成功」なんてリスクのある言葉ではなく「従来の垢を取り払った」と言わないと。ちなみにここで「垢抜けた」なんて表現をしたらやっぱり勃起不可避だ。「垢抜けた」は「赤ちゃんの種を抜き抜きしましょうね」という言葉の略語かもしれないので安易に使っていい言葉ではない。
話を戻そう。
とにかく僕は陰鬱というか淫鬱な中学時代から脱し、なかなか楽しい高校生活を謳歌していた。なおここで「謳歌」を「満喫」なんて言っている奴がいたらそいつはド変態に違いないから気を付けた方がいい。「満喫」は「マンがきつい」を連想させるスーパースケベワードだ。その言葉を使うやつは女児大好きのロリコン教授に違いない。
もう一度話を戻そう。
楽しい高校生活を謳歌していた僕は、まあまあ友達もできた。男女問わずでだ。
やっぱり勃起してしまうこともあったけれどうまく隠せてきた。
そうして高校生活一年目はあっという間に過ぎていった。
しかし、高校生活二年目に入ってすぐのある日。
僕の日常は一変した。
*
高校二年生、春、四月半ば。
とある放課後のことだった。
帰宅しようと校舎を出て、校門まで歩いているときのこと。
学ランに内ポケットにスマホを入れていたせいで乳首が刺激されて勃起してしまったので、おさまるまで待とうと校舎裏へ足を運んだら、先客がいた。
どうやら男女の告白の現場だったのだが、どうも揉めている。おっと「揉めている」なんて卑猥な言葉を使うわけにはいかない。口論のようなものが繰り広げられていた。男が女の腕を掴んで迫っていて、なかなか緊迫した様子だ。緊縛プレイじゃない、緊迫だぞ。
「そっちが誘ってきたんだろ!」
「誘ってなんてないません!」
誘ったという男と、誘っていないという女。
なるほど完全に理解した。
あの男、勘違いしちゃったのだろう。あるある、男ってちょっと優しくされるだけですぐ好きになっちゃうんだよね。というかもう「僕に優しくしているのは、交際してエッチしたいからに違いない」とか思ってるんじゃなかろうか。
だがしかし、驚いたな。
あの女子生徒が、エロすぎる。遠目でもわかる。
事実として、今も僕は勃起している。見ているだけで勃起している。スマホ乳首摩擦のときよりも硬度を増しているぐらいだ。
大きな目と整った顔立ち。
染み一つなく透き通るような色白の肌。
黒く長くつややかで流れるような髪。
小柄で細い体躯。しかし身に着けた制服のセーラーを内側からこれでもかというほど大きな胸が押し上げている。
男好きする設定全部乗せ、スケベの権化と言っても過言じゃない容姿だ。
また声もかわいらしく、まるで声優のよう。
淑やかで品がある声色で端々からは漂う真面目さと育ちの良さ。
なのにどこかこちらを誘うような甘さを孕んでおり、聞いているだけでR18のエッチな音声作品を聞いている気分にさせられる。無意識な誘惑ボイスとはまさにこのこと。もしも彼女の声をエロゲで聞いたら「あぁ、天職を見つけたんだな」と納得するだろう。
今も嫌がっているような声を出しつつも、実はエッチなことを期待しているように聞こえるほどだ。
あんなのと関わったら、僕のように性欲を理解していない限りは「自分は彼女に誘惑されている」と考えてしまってもおかしくない。気が付いたら好きになっちゃうのが普通だ。
状況を把握したところで、このいざこざをどうにかするとしよう。
なぜって、僕の勃起状態が先ほどよりもひどくなったので、彼らにこの場から離れてもらい、勃起が鎮まるまでここで待機するためだ。まあ鎮まらなかったら鎮めるのだが。
「君たち、やめないか」
なだめるような声とともに、僕は彼らに近づいた。
「お前誰だ、よ……」
威勢の良かった男の声は、しりすぼみに強くなっている。
「うわ、わ、うわぁぁぁぁぁぁ、怪物だぁ!」
そして男は誘惑ちゃんをほっぽりだし、その場から走って逃げていった。
まるで恐ろしいものを見たかのように。
あんな感じの、昔見たことあるな。
確かあれは銭湯でエクアドル人が……。
「はっ」
気付いたように、下半身に視線を送る。
ズボンから、ペニスの先端、こんにちは。
この女の子がスケベすぎて90%の勃起をしてしまい、亀頭がズボンからはみ出てしまっていた。ちょっとした恐怖映像だ。
「ありがとう、ございます?」
誘惑ちゃんは訳が分からないながらも、かわいらしく小首をかしげた。まずい!
とっさにブレザーでお腹周りを隠す。
僕の男性器がぴくぴくと震え、さらにサイズを大きくした。
危ない危ない、無自覚に露出と射出するところだったぜ。
いや、危ないと言えば、この女の子だ。
とんだ勃起誘発ガールじゃないか。かかわるのは危険だ。
チンコがはみ出るくらいに危険だ。何ならもうはみ出てるし。
「ごめん、邪魔したね。それじゃあ僕はこれで。
あんまりそうやって、男を誘惑しすぎない方がいいよ」
僕は背負っていたリュックを前に回し、膨らんだ男性器を隠すようにして、踵を返した。
「待ってください!」
しかし、彼女は僕の手を掴んできた。
手の先から、快楽が体に流れてくる。
なんだ、この男の本能を刺激する触覚は!
振り返る。
ふわりと風に舞い、甘い香りが鼻をくすぐった。
「私、不知火無垢っていいます。一年二組です」
不知火さんは濡れた視線とともに自己紹介をする。
その眼に、僕はさらに勃起が強まるのを覚えた。
「二年二組の北見達樹だけど」
「北見先輩ですね。その、突然なんですけど、相談良いでしょうか?」
出会ったばかりの勃起野郎に相談とは、何事?