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偽兄弟商人の楽しい旅⑤

読んでいただいてありがとうございます。

 シルフィーリたちはその日の夕方には、国境近くの街の中でも比較的大きな街へと着いていた。


「ここがジャスミンですか?」

「いえ、ここはまだ違います。ジャスミンはもう少し先ですね。今日はここで一泊しますが、明日の朝は早めに街を出発するので、今日はとにかく休んでください」

「はい」


 街へ入る手続きが済むと、シリウスは迷うことなく高級な宿屋に入った。


「あの、いいんですか?こんなお高そうな宿で」

「えぇ。まだまだ領内の治安が良いとは言えませんからね。こういう宿屋の方が、防犯はしっかりしていますから。それに、馬車に乗っていたとはいえ、疲れたでしょう?今日くらい、ゆっくり休んでください。フィーが倒れたら、それこそ日程が狂ってしまいますから」


 神殿のシルフィーリの部屋は、質素で寒々としていた。なので、どんな宿屋でも眠れる自信がシルフィーリにはあったのだが、逆にそれだとシリウスが困るかもしれない。

 何せシリウスは、生粋の貴族だ。こういう高級な宿屋の方が馴染みがあってよく眠れるのだろう。

 シルフィーリはそんなことを思っていたのだが、実際のシリウスは、軍に同行していたこともあるので、テント生活だってやったことがある。それに商人としてどこかに泊まる時は、もっと安い宿に泊まることもあるので、シルフィーリが心配するほどではない。


「ありがとうございます。兄さんもゆっくり休んでください」

「えぇ、フィーも」


 シリウスとシルフィーリは、今回は別々の部屋だ。

 シリウスは従者と一緒だし、シルフィーリはケイトと一緒の部屋だった。

 部屋は、シリウスとシルフィーリが隣同士で、その周りに何人かずつに別れて泊まることになった。


「フィー様、お疲れ様でした」

「ケイトもお疲れ様です。ふふ、でも、こうしてケイトと一緒の部屋で眠れるのは心強いです」

「ありがとうございます。私もです。フィー様と一緒で嬉しいです」

「ケイト」

「はい」

「私、明日からもたくさん質問をすると思うけど、嫌にならないでくださいね」

「まぁ、嫌になるなんて、そんなことはあり得ません」

「……そう言ってもらえて、嬉しいです」


 ちょっとはにかむシルフィーリの可愛らしさに、ケイトは、こんな姿をシリウス様が見たら危なかった……!と思いながら、母性が爆発してシルフィーリをぎゅっと抱きしめたいと思う心を、必死になって抑えた。


「明日の朝はシリウス様を起こしに行く必要もありませんので、ゆっくりお休みください」

「そっか。ここは屋敷ではないので、私の仕事はないのですね」

「今はフィー様ですから。フィー様の仕事は、ラージェン領を見て回って、産業になりそうな物を見つけることですよ」

「そうでした。がんばります」


 シリウスを起こすという仕事がないと知って、ちょっとしょんぼりしたシルフィーリだったが、すぐに笑顔になったのだった。




 夜の間は特に何事もなく静かに過ぎて、翌朝、シルフィーリは元気に起きてきた。

 昨日の夜は自分が思っていた以上に疲れていたらしく、あの後、すぐに眠ってしまい、気が付いたらもう朝になっていてケイトに起こされた。

 けれど、そのおかげで疲れは取れた。


「兄さん、おはようございます。今日も一日、がんばります」

「はい、おはようございます。その調子で行きましょうね」


 シリウスもゆっくり休めたのか、心なしか顔色もいい。

 帝都の屋敷にいた時よりも、元気そうな気がする。


「先ほどジャスミンから来たという商人に話を聞いたら、ジャスミンはちょうど明日、市が立つそうですよ。今日中にジャスミンに着くので、明日の市には間に合いますね」

「市ですか?」

「近隣の街や村からも人が集まるそうなので、それなりの大きさの市だそうです。楽しみですね」

「はい、楽しみです」


 シルフィーリは市のことについて話を聞いたことはあっても、実際に行ったことはない。

 シリウスと一緒にいると、今まで体験したことがないことが体験出来るので、とても勉強になる。

 まだまだ一人では何も出来ない身だけれど、ちょっとずつ勉強して行こう、シルフィーリは、そんな決意を密かにしていたのだった。


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