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偽兄弟商人の楽しい旅③

読んでいただいてありがとうございます。本年もよろしくお願いします。

 シリウスたちが休憩していた場所は街道のすぐ横だったので、当然、ラージェン領からフィアドラ帝国に向かう商人や旅人たちも利用していた。

 先ほどから、何台もの馬車を連れてフィアドラ帝国の方へ向かっている商人と思わしき集団が何度か通って行った。

 反対にフィアドラ帝国からラージェン領に向かう人間は、荷物の量が少ない。

 

「おぉ、これはこれは、セイリウス殿ではありませんか?」


 シリウスが人々の行き交う街道を眺めていたら、フィアドラ帝国に向かっていた商人の一人が、シリウスの偽名であるセイリウスの名前を呼んで近寄って来た。


「おや、リーケル殿ではありませんか」


 細身の三十代くらいの男性は、帝都に店を構えている商人の一人だった。

 

「お久しぶりでございます」


 リーケルは、シリウスに対して丁寧に頭を下げた。

 帝都に店、それも大店と呼ばれるくらいの店を構えているリーケルは、商人のセイリウスが大公であることを知っていた。

 時々、商人の目から見た各地の情報をシリウスに提供しているし、大公としてのシリウスはリーケルにとって金払いの良い上客でもあった。


「ラージェン領からの帰りですか?」

「はい。今までは閉鎖的な国でしたので、あまりラージェンの商品が入って来なかったのですが、こうしてフィアドラ帝国の領土になったおかげで、私共も気楽に行けるようになりました。ですから、どのような商品があるのか探しに行った帰りです。とりあえず旧王都まで行って来ましたが、色々な品物がありましたよ」


 リーケルがにこにことした顔だったので、旧王都にはそれなりに帝都で売れそうな物があったらしい。


「ずいぶんと早い段階で行かれたんですね。危険はありませんでしたか?」

「はい。帝国の兵士たちが見回りをしてくれているので、安心して旅が出来ました。新しい領主様が決まって、帝国の正規兵たちが引き揚げて行った後が怖いですね」


 今はまだ兵士たちの数も多く、ラージェン領は反乱を起こす力もない。

 これが新しい領主になると、基本的にその領主の私兵が領内を見回ることになるので、領主次第では兵の数も質もぐっと落ちることになる。


「出来ればこれからも安全に行き来をしたいのですが、セイリウス殿は新しい領主様がどなたに決まったのかご存じですか?」

「シュレンベーグ大公ですよ」

「ほう!」


 シュレンベーグ大公、つまり目の前のシリウスが新しいラージェンの領主となることが決定しているという話は、リーケルたち商人にとっては朗報だった。

 帝国において、皇帝の次に権力を持っている人間が領主になるのだ。大公の権限は帝国内においても強く、大公の持つ騎士団と帝国騎士団、二つの軍を同時に動かすことの出来る。


「シュレンベーグ大公殿下は、ラージェン領をどのように治めていかれると思いますか?」

「さて、どうでしょうね。まずは新しい領地を見てからとなるでしょう。税金などは帝国とそう変わらなくなるでしょうが、旧王都はともかく、周辺の町や村などには王国が滅んでも自分たちの生活は変わらないと思っている者もいるでしょう。そういった場所ではまだまだ閉鎖的な気がしますね」

「確かに。王国が滅んだというのに、王国時代の自分たちの権力がそのまま引き継がれると勘違いしている者もおりましょう。商人仲間の一人がそういった性格の人物と会ったらしく、中々の値段をふっかけられて大変だったと言っておりました」

「そうですか。ですが、商人として、適正な値段での取引きをしなくてはいけませんね」

「品物に見合った金額での取引きは当たり前のことです。我々は誇り高き帝国の商人ですから」

「戦に負けたとはいえ、ここはすでに帝国領になった場所です。帝国の法の下、我らは動かなければなりません」

「もちろんです。商人仲間にもそのことを伝えておきましょう」

「そうですね。もちろんそれはラージェン領の者たちにも言えることですが」

「その辺りは大公殿下が引き締めてくださることを期待しております。どうもこちらには気の強い者たちが多いようですので、殿下の言うことを素直に聞くかどうか……」

「引き締めは厳しいものになるかもしれませんね」


 リーケルが軽く首を左右に振ると、シリウスがにこやかにそう言った。

 それから旧王都の様子などをシリウスに話していたリーケルだったが、何かを思い出したようで、急にフッと笑った。


「そういえば、少し噂を仕入れたのですが、何でもラピテル神の巫女だったという女性が、旧王都近くの町に逃れて来たそうです。何でもその女性はどこかの貴族の血を引いているらしく、ラージェンの王子の恋人だったとか。ご自分の美貌に自信があるらしく、見つかったらフィアドラ帝国の皇帝の下に行かされるとか何とか騒いでいるそうですよ」

「うちの陛下の下にですか?絶対にいらないって言うと思いますけど」

「ははは、私もそう思いましたが、ご本人は本気でそう思っているのでしょう。いえ、むしろ、それを望んでいるのかもしれませんね」

「なるほど。そういう性格の女性ですか」

「上手くいけば、フィアドラ帝国の皇妃になれますから」

「ありえませんね。あまり出来がよくなかったあの王子の恋人だった女性でしょう?程度が知れています」

「もしかしたら、新しい領主が大公殿下だと知れば、殿下の方を狙いに来るかもしれませんね」

「シュレンベーグ大公は婚約したばかりなので、他の女性に目が行くことはありませんよ」

「何と!それは、それは……知りませんでした」

「つい先日、婚約したばかりです。相手はラピテル神の、神の子の方の神子で、とても可愛らしいお嬢さんですよ。彼女は陛下にも可愛がられていますし、つい先日、ジュノー公爵家の養女になることが決まりました」

「おぉ、ついに殿下にもそのような御方が……。それも商人仲間に言ってもよろしいのでしょうか?」


 感慨深い、という感じのリーケルだったが、それが自分の心に秘めておくべきことなのかどうかをきちんと確認してきた。


「広めてください。大公は彼女を溺愛している、と言ってもいいですよ」

「……本当にそれでよろしいのですか?」

「事実ですから」

「では、そのようにさせていただきます」


 リーケルは、一度帝都に戻るが、近いうちにまたこちらに来るという約束をして、旧王都に近い町で仕入れたという珍しい果物をいくつかシリウスに渡してから自分の商隊に帰って行った。

 リーケルがいなくなると、今度はシルフィーリが近寄って来た。


「あの、シリ……兄さん、お知り合いの方だったんですか?」

「えぇ。リーケルは、帝都でも色々と購入したことがある優良商人ですよ。その内、フィーの物も彼から買いましょうね。大丈夫です、リーケルに言えば大抵の物は揃いますから」

「無茶なことは言いませんよ」

「珍しい他国の神話のことが書かれた本などは要りませんか?」

「そ、それは……読んでみたいです」


 神殿にいる時、図書室で本を読むことを趣味としていたシルフィーリは、少し困った顔をしながらも素直に答えた。


「そういう物も全部、リーケルに任せておけばいいんですよ」


 リーケル本人が聞いたら、あまり無責任なことは言わないでください、と言ったのだろうが、すでにリーケルはいなくなっていたのでその言葉は訂正されることなく、シルフィーリは素直にシリウスの言葉を信じたのだった。

 


 




 

 

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― 新着の感想 ―
早くもすったもんだの予感が・・・ まあ、「大公は婚約者を溺愛している」んですから問題はないか。
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