回収が楽だった
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予定通り森の中で密かに大公一行と別れ、それらしい服装に着替えた。
「私たちは、帝都に店を構えていて、今回はラージェン領に支店を出すために向かう最中です。その道すがら、どこかに商品になりそうな物がないか探しています。特産品などがあるといいんですが」
「特産品ですか?」
「えぇ。特産品があれば売れますから。民にお金が入れば、税収も上がります。お金がなければ国に税金も入りません。民が豊かになってこそ、国も豊かになるというものです。売り方や売る場所などは検討しなくてはいけませんが、物がなければ成立しません。ラージェン王国の時代は、鉱物などの輸出はありましたが、どちらかというと閉鎖に近いお国柄のようでしたので、あまり外に向かって商品を輸出するということはやっていなかったんですよね。国内だけで回していたので、貴重な品々は国の宝物庫や貴族たちの家にあり、こちらとしては回収が非常に楽で助かったそうですよ」
大きな宝石をあしらった豪華な装飾品、貴重な鉱物で作られた剣や鎧など、個人的には趣味が悪いと思うくらいごちゃごちゃ飾り立てられた物が多かったが、それらの大半は王侯貴族の宝物庫に眠ったままだったので回収はとても楽だったし、きちんとリスト化されていたので取りっぱぐれもなかった。
リスト外の物も出てきたが、どれもこれも高価な物ばかりだった。
趣味は悪いけど。
それらは皇帝に献上されたのだが、シリウスと似た感性を持っている皇帝は眉をひそめて、美術品としての価値がある物以外は全て新しく作り直すなり売るなりしろとシリウスに丸投げした。
シリウスはそれらを容赦なく売りさばき、ラージェン領に送る資金の一部にした。
ラージェンは国として残ることはなく帝国の領の一つとなったので賠償金が取れなかった。なので、少しは回収したかったのだ。
「今、帝都の宝石商の元には、その時に売った装飾品や宝石などが出回っています。フィーは何かほしいですか?」
「要りません。えっと……神官様たちもよくそういう装飾品を身に着けて自慢しておられたのですが……その…似合っていなかったというか……神官服にだと少々……その……」
「あぁ、悪趣味で成金神官になっていたんですね」
ものすごく言いよどんだシルフィーリに、シリウスはあっさりとそう言った。
成金神官という言葉にシルフィーリは納得が出来たので、笑いを堪えながら頷いた。
「はい。もちろん、大神官様や歴代の神子たちが人前に出るための豪華で洗練された服には宝石をあしらった装飾品があって似合っていたのですが、大半の方はそうではなかったので」
「あぁ、神殿から押収した分もありましたね。一応、神子用だと聞いた装飾品は残してありますので、帰ってから確認してくださいね。多分、全て残っているとは思いますが、うっかりもありますので」
「もし残っていなくても全然かまいません。うっかり売ってしまっていても、ラージェン領に還元されるのですから、きっと神官様たちも喜んでいると思います」
「そうですか。私の目から見て神子に相応しいと思ったものは間違いないと思うのですが、神子用の中に神官が自分の物を入れてしまったようでして。本人は神子用だと騒いでいましたが、君にあまりに派手な装飾品は似合いませんからねぇ。そういった物は売ってしまったんです。まぁ、私だってうっかり間違えることはありますよ」
「私が見てもそれが本当に神子用なのかは分かりませんので、仕方ないと思います」
「そうですか。全部売り払って新しい物を揃えるという手もありますが、ちゃんとした神子用の装飾品にはそれなりの歴史がありますから、残していきましょうね」
「はい」
シルフィーリ自身はあまり見たこともないし、実際に身につけたこともない。
幼すぎてさすがに宝石をごちゃごちゃあしらった装飾品を身に着けるのは神官たちも反対したので、最低限のネックレス程度だった。
それもすごくシンプルなネックレスだったのだが、どうやらそれが一番、古くから伝わる神子用の装飾品だったらしい。
ちなみに神官たちが反対した理由は、一度そういった物を身につけることによって宝石などに執着を見せ、ほしいと我が儘を言われることを警戒してのことだったのだ。欲望にまみれた自分たちとシルフィーリが同じだと警戒していたのだ。
シルフィーリの方は、彼ら独自の美意識に共感することは出来ず、どちらかというとシンプルな物を好んでいた。
シルフィーリの周りでも昔ながらの、神に仕えることを第一と考える神官は極少数だった。
「ですが、フィーは私の婚約者になったのですから、これから先、何かと必要になります。他の貴族の屋敷に招かれたり、夜会などもありますからねぇ。大半はうちに伝わる装飾品で大丈夫だと思いますが、フィーに似合うかどうかは別です。好みもありますが、フィーに似合いそうな物があったら、ぜひ贈らせてくださいね。遠慮は無用ですよ。私があなたに贈りたくてうずうずしているので。私のささやかな楽しみなので、素直に受け取っていただけると嬉しいです」
ささやか……きっとお値段はささやかじゃない。
「えっと、はい、分かりました。でも、あれもこれもはちょっと……」
「もちろんです。フィーに似合う物しか贈りませんよ。そこは私の腕の見せ所ですね」
笑顔のシリウスに、シルフィーリは曖昧な笑顔を返したのだった。




