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皇帝の姉

読んでいただいてありがとうございます。

「初めまして、シルフィーリ嬢」


 優雅に微笑んでいたのは、黄金の髪と翡翠の瞳を持つゴージャスな美女だった。

 スタイルの良さはもちろんのこと、そのドレスもシンプルながら生地の光沢が今までシルフィーリが見てきた中でも一番綺麗に輝いている。

 

「わたくしはジュノー公爵夫人ウェンディというの。あなたが会った皇帝の姉でもあるわ」

「この度、シリウス様の婚約者になったシルフィーリと申します」


 シルフィーリの持っている服の中では神子服が最上級の礼服だったので、それを着てウェンディに礼をした。

 一応、シリウスや侍女たちからは合格点を貰っているので、おかしなことにはなっていないはずだ。

 けれどさすがに公爵夫人で皇帝の姉という圧倒的ゴージャス美女の前で、シルフィーリはすごく緊張していた。

 謁見の間で大勢の男たちに囲まれて皇帝の質問に答えていた時は、もうすぐこの命も終わるものだと思っていたから覚悟も決まっていたが、ここのところ、婚約者に甘やかされる日々だったので、久しぶりの緊張感でぷるぷる震えそうになっていた。

 そんなシルフィーリにウェンディは近付いてふふふっと笑うと、次の瞬間、シルフィーリはぎゅっと抱きしめられていた。


「きゃー、すっごく可愛いわ!ヒューゴってば何の策もなくこの子をシリウスにあげちゃうなんて、許せないわね!!」


 柔らかくてとてもいい匂いの美女に抱きしめられたシルフィーリは、おずおずと顔を上げた。

 

「あ、あの……」

「大丈夫?日々、あの朴念仁に意地悪されてない?あの子、自分ではそう思っていなくても、無意識に言葉が足りないというかきつくなるというか……まぁ、色々なことを表現するのが苦手なのよね。どれだけ直した方がいいって言っても、どこを直したらいいのか分からずにきょとんとしてばかりだし、女心なんて欠片も理解していないから、こんな小さな女の子を引き取るって聞いて心配していたのよ」

「そんなことはありません。いつもシリウス様はとってもお優しくて、えっと確か、溺愛?って言われています!」


 シルフィーリと接している時のシリウスはウェンディの言うシリウスと全く違うので、慌ててそう宣言したら、ウェンディが侍女の方を見た。侍女はシルフィーリの言葉を肯定するように笑顔で頷いた。


「まぁまぁまぁ、そうなの。溺愛なの。そう、それはいいことね。でも、合格点は上げられないわよ。こちらに来てすでにそれなりの日数が経っているというのに、未だにあの子はシルフィーリちゃんに似合うドレスも贈ってないようだし」


 にこりと笑うウェンディに、侍女たちもやはり笑顔で頷いた。

 侍女たちもシルフィーリの服に付いて思うところは色々とあったのだが、まずはシルフィーリにここの環境に慣れてもらうことを優先したいというシリウスの言葉にしぶしぶ諦めていた。

 確かに一度、服は購入したが、デザインは既存の物のまま、手触りやシルフィーリの動きやすさなどを重視したシンプルな服だったので、夜会などにはあまり着ていけない物だった。

 シルフィーリ自身も今ある服で十分と思っていたようで、特に不満などは言わなかった。

 なので、動きやすい普段着をいくつか購入するだけに留まっていたのだ。


「いくつかいただいているので、それで十分なのですが……」

「ふふ、いい子ね、シルフィーリちゃんは。でもね、お金を持っている人間が使わないと、お金が回らないわ。わたくしたちのドレスを作ることで、下の人間にお金が周り、技術も進歩するのよ。だから遠慮なんてしないで、シリウスに何十着でも作らせればいいのよ」


 ふふふふふ、と笑うウェンディに、シルフィーリはちょっと困ったような顔をした。

 周りを見ても、侍女たちはウェンディの味方っぽい。

 それに最初はシルフィーリ嬢と言っていたのに、すでにとても親しい感じの呼び方に変わっていいる。


「というわけで、あなたに似合うドレスを注文しましょうね。ちゃんとデザイナーは連れてきているから」

「ですが、私はこの後、この国を離れてラージェン王国に行く予定になっています。ですから、そんなに服は」

「だからこそいるのよ、シルフィーリちゃん。神子であるあなたが帝国で大切にされている、着ている物一つでもそれがはっきりと分かるようにしないといけないのよ。初手でそれを出来るかどうかで、ラージェン王国の民の帝国への印象が変わるわ。考えてみて、無理矢理連れて行かれた神子が、着の身着のままで戻ってくるのと、一目で大切にされていると分かる姿で戻ってくるのと、どっちがいいかしら?」

「あ……確かにそうですね」

「ふふふ、その辺があの子がまだまだな点ね。大丈夫よ、全てお義母様に任せなさい。あなたに似合うドレスを何着か用意するわ。道中は仕方ないとしても、ラージェン王国の王都に着いた時には必ず着ているように」

「は、はい。……あれ?お義母様?」


 勢いに呑まれて返事をしたが、聞き慣れない単語があった。

 お義母様って、誰?

 シルフィーリの両親はいないし、ウェンディは皇帝の姉だと言っていたし。

 一体誰のことだろう?

 シルフィーリのそんな疑問に、笑いながら教えてくれたのは当の本人だった。


「もちろん、わたくしのことよ。いくら皇帝陛下の承認があってもシリウスの婚約者ともなれば、ラピテル神の神子というだけでは弱いもの。だから、わたくしと旦那様があなたの義理の父母になったのよ。今日からあなたはジュノー公爵家の娘よ。もっとも、娘と楽しむ時間もないのだけれど」


 ふふふふふ、と笑う姿はやっぱりあの皇帝陛下の姉なのだと実感させられる。


「だから、あなたには公爵家の娘としても相応しいドレスを用意するわ」


 キラッと光った目に気圧されて、シルフィーリはしばらくの間、着せ替え人形と化したのだった。

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