旅の道中はゆっくりと
読んでいただいてありがとうございます。遅くなりました。本当に申し訳ございません。
家に帰ると、シルフィーリが笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、シリウス様」
「はい。ただ今帰りました、シルフィー」
シルフィーリの後ろで家の者たちがにこにこしている。
きっとシルフィーリのことを微笑ましく思っているのだ。
だが、そんな彼らに元ラージェン王国行きを告げなくてはいけない。
この屋敷の留守も守ってもらわなければいけないので、その選別もしなければならない。
足腰が悪い人間やどうしても帝都に残りたい人間はお留守番になる。
「シルフィー、陛下より私たちでラージェンの王都に行くことになりました」
「え?王都にですか?」
「あなたの故郷ですね。せっかくここでのんびり暮らす予定だったのですが、どうもあちらの仕事が上手くいっていないようなので何とかしてこいと言われました。それにあちらの市民があなたの身を案じているようなのです」
「市民の方々が?」
「はい。大変よくしてくれた神子様が敵国に連れていかれたら、案じもするでしょう」
「……ちょっとだけ罪悪感が湧いてきました。だって、全然怖い目にあっていないので……」
それどころか、きちんと保護されて何故か甘々な婚約者も出来た。
「あちらの国にはまだ伝わってはいないでしょうから。ですから、顔見せも兼ねて私たちで何とかしてこいというのが、陛下の命令です」
拒否権はないと何度も念を押されたので、こればっかりは諦めるしかない。
「あちらが落ち着くまではいなくてはいけませんから、少々、長期滞在になるかもしれません。それでもいいですか?」
「シリウス様こそいいのですか?」
「陛下の命令ですから、仕方ありません。ここで駄々をこねても何もいいことはありませんし、たまにはこちらにも戻って来ないといけませんから、ここもそのままにしていく予定です。残り組とあちらに行く組を分けないといけませんね」
あちらに行く者には多少給料を増額すると言えば、独身者なら行ってもいいという者もいるだろう。
あと、好奇心が旺盛な者も。
「陛下から、出来る限り迅速に行くように言われましたので、出来る限り早く行きましょうね」
出来る限り、なので、例えば人選に時間がかかったり、シルフィーリがちょっと疲れて休憩を多くとったとしても仕方ないだろう。
シルフィーリが行ったことがない場所で休憩するのも仕方がない。
その場所が旧ラージェン王国に向かう街道から多少離れた場所でも、神子がゆっくり休憩出来る場所がそこしかないのだったら仕方がないのだ。
「シルフィーはまだ小さいのですから、体調を考慮しながら行きましょうね」
シリウスはともかく、シルフィーリは体力面も考えるとあまりこちらに帰って来られないかもしれないので、多少は名所と言われる場所の景色を見せたい。
後日、シリウスたちが泊まった場所などの報告を受けたヒューゴは、観光旅行じゃん、と小さな声で呟いたのだった。




