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四神物語  作者: 星行 張
1/1

朱雀の力を受け継ぎし者

朱華(あやか)!ちょっと待ってよ!」

「はいはい、けど、早くしないと次移動教室だし間に合わないよ?」

「分かってるけど…」

 私立四ツ(よつがみ)学園高等部。現在は清掃の時間だ。2年生の南里(なんり)朱華と、同じクラスで幼馴染みの東野青羅(ひがしの·せいら)は、それぞれ大きなゴミ箱を抱えて歩いている。朱華は振り返って後ろをついてくる青羅を見ながら話していた。

「…おい、危ない!」

 ふと、上の方から声がする。上の階で植木鉢を持っていた生徒が、手を滑らせたらしい。

「!朱華!避けて!」

「…え?」

 気付いた青羅が声を上げる。朱華は立ち止まり、見上げると、植木鉢が自分に向かって落ちてきていることにようやく気付いた。しかし、突然のことに足が動かない。

 ぶつかる!

 そう思ってきゅっと目をつぶる。すると、

「きゃああああああああああ!!!!」

 周囲の生徒から悲鳴が上がる。だが、朱華自身は全く痛みを感じていなかった。ギリギリ直撃は免れたのかとも思ったが、それにしても植木鉢が落ちて割れたような音もしない。むしろ、一瞬熱を感じたような…。

 朱華は恐る恐る目を開く。そして、自分の額などに触れてみるが、やはり怪我はしていないようだ。続いて、周囲を見渡す。植木鉢の破片のようなものはない。代わりに、黒い燃えかすのようなものが地面に落ちていた。

「…朱華……」

「へ?一体、何が起きたっての…?」

 青羅はじめ、周囲の者たちは何やら困惑している様子だ。事情を聞こうと、朱華は青羅に近づこうとする。

 その時、予鈴の音が鳴り響いた。

「あ、やば!とりあえず話は後!早く片さないと!行こ、青羅!」

「あ、うん…!」

 2人はゴミ箱を持って、小走りにごみ捨て場へ向かった。


ーー


「…見つけたぞ。"朱雀"…!」

 茂みから、男の声がする。様子を伺っていたのは、生徒たちだけではなかった。


ーー


「…で?あの時結局何が起きたの?」

「…」

「ちょっと、青羅ってば!」

 その日の帰り道。朱華は事情を聞き出そうとするが、青羅は黙り込んだままだ。

「何かみんな人のこと指差してヒソヒソ言ってるし…。ホント何なの…?」

「……朱華」

「うわ、何?!いきなり止まらないでよ…」

「…ちょっと、来て」

「え?…ちょ、待ってよ!」

 青羅はようやく口を開いたと思いきや、今度はずんずんとある場所へ向かって進んでいく。そんな彼女についていく朱華。

 たどり着いたのは、人気のない、公園の奥の大木の下。昔、2人が秘密基地と称してよく遊んでいた場所だ。

「懐かしい…!…じゃなくて、こんなとこ連れてきて、どしたの?」

「…朱華、見てて」

「…?」

 青羅は落ちていた枝を一本拾う。そして、何やら集中している様子で、目を瞑る。

 すると、彼女の黒い髪が、突如真っ青に変わった。

「…は?」

 さらに、開かれた瞳も蒼くなっている。そして、青羅が枝を放り投げてパチンと指を鳴らすと、枝に向かって小さな稲妻が落ちたように、光り輝いた。

「っ!」

 眩しさに一瞬目を反らす朱華。再び視線を戻すと、青羅の容姿は元に戻っており、彼女の足元に焦げた枝の残骸のようなものが落ちていた。

「…え?何?!手品…じゃないよね?!」

「…今のだよ」

「は?」

「…今みたいなのが、掃除のとき、朱華に起こったこと」

「…は?はああああ?!いやいや、嘘でしょ?!」

「本当!一瞬、朱華の髪が真っ赤に変わって…それで、炎が上がって、植木鉢を燃やしたの…」

「…そんな魔法みたいなこと、あるわけ…」

「さっき見たでしょう?」

「…そう、だけど…」

 あまりにも突拍子もないことを突きつけられ、朱華はすっかり混乱していた。青羅は青羅で、少し気まずそうだ。

「…何?青羅は実は、魔法使いだったとか…?」

「違う!ちょっと前、いきなり家でプリントが燃えて…。髪の色も変わってるし、訳分からなくて…」

「そんなこと、一言も…」

「だって気味悪いじゃん!こんな力…。最近は、集中すれば自分の意思で使えるようになったけど…」

「じゃあなんで今、見せてくれたの…?」

「朱華にも、同じようなことが起こってたから…。…口だけで説明しても、絶対信じないでしょう?」

「まあ…見ても信じられなかったくらいだし…。…けどそっか。とりあえず、話してくれてありがと」

「うん…。…あ、朱華!あの…」

「分かってるって!誰にも言わないよ。私らだけの秘密ね!」

「…うん。ありがとう…」

「…けど、私は何人かに見られてるんだよね…。見てない人にも広まってそうな感じするし…。どうしよ…」

「それなら安心しなよ。ちゃんと記憶は消しといてやったからさ!」

「え?」

 ふと、上の方から少年らしき声が聞こえてきた。かと思いきや、人影が樹の上から落ちてきて、2人の前に見事着地する。

「へえ、"朱雀"だけじゃなくて"青龍"も一緒にいるなんて。オレってばツイてるなー」

「…な、何?誰?」

「オレの名前はウォーグル。四神の力を奪いにきた!」

 黄金の衣服を身にまとった少年は、その見た目に負けない派手な名乗りをする。一方朱華は、またしても混乱していた。

「…は?シジンノチカラ…って…?」

「…もう、いいから行こう!」

 脳内処理が完了していない朱華に対し、冷静な青羅。朱華の手を取り、その場から駆け出す。

「え?青羅?急にどしたの?」

「どしたの?、じゃない!どう考えても怪しいでしょう…!早く逃げないと!」

「う、うん…」

「おいおい、逃がさないぜ!!」

 ウォーグルは両手で地面をバン、と叩く。すると、地面の一部が盛り上がり、朱華たちの行く手を阻む。

「ちょ、何これ…?!」

 盛り上がる箇所を避けながら進んで行く2人。ふと、わずかに盛り上がった箇所で青羅がつまずくと、手を握られていた朱華も連れてこけてしまう。

「さてと。これで終わりだな!」

 ウォーグルが2人に向かって手を伸ばす。

 まずい、捕まる…!

 そう、朱華が思ったとき。

『手をかざせ』

「…え?」

 どこから、というのではなく、頭の中に直接、女の声が聴こえてきた。

『奴に向かって手をかざせ。そして強く念じろ』

 女の声が続く。

「こ…これでいいの?!」

 訳が分からぬまま、微かな希望を信じ、女の声に従う朱華。ウォーグルに向かって左手をかざす。

 ボッ!!

 すると、朱華の掌から炎が噴き出した。彼女の髪と瞳も、燃えるような真紅に変わっている。

「な…っ、何?!」

 ウォーグルは思わず自らをかばう。

「?!い、今のうち…!」

「!お、おい、待て…!」

 消えぬ炎とウォーグルをその場に残し、今度は朱華が青羅の手を取って走り出す。

 自分の家までたどり着くと、青羅も引き入れ鍵を閉める。2人とも、すっかり息を切らしていた。朱華の容姿は、いつの間にか元に戻っている。

「…ホント、何なの…?!」

 ドアを背に、朱華はズルズルと玄関にしゃがみこんだ。

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