一話 無能黒煙皇子の夢
この世界には特別な力を扱う者がいる。王族、皇族の一部がもっている。
三つの王族に三つの皇族がおり、それぞれ違う力をもっている。またその力を司る神のような力を得た者を英雄といい、ある程度の力を持つ者を英傑といった。力を持たない者を無能ともいった。
ディソ大陸にあるジソ皇国は1年前、隣国のディル王国に宣戦布告をした。戦力差は圧倒的にジソ皇国の方が弱い。つまりジソ皇国は小国なのだ。ディル王国は大国ほどではないが小国でもないのだ。結果は見えているというのが国際的な見方だった。ジソ皇国の無能黒煙皇子が動くまでは。
「父上」
「なんだ、無能」
ジソ・ルドベールは父ジソ・ダークに話しかけていた。ダークは英傑であり、ジソ皇族が持つ特別な力は闇に関することであり、ダークは魔物と言われる異形な生物の生成することができた。そこがジソ皇国の切り札だと誰もが思っている。
「ポ・ゲール地区にあるクリーム村周辺の村々を含めたところの視察行かせていただきたいです」
ポ・ゲール地区はジソ皇国の北側に位置し、ディル王国と接しているところだ。ルドベールはその地区の村々の視察を行うことで、ジソ皇国を裏切り、ディル側についていないか確認しようとしたのだ。
「...私は我が国、東でディル王国に接しているところを管轄している、そっち側にはあまり見れていない。ルドベールよ、もしそこで戦いになりそうなら、その地区での指揮権を渡そう」
「はっ!」
「話は変わるがいつになっても煙管をやめるつもりはないのだな?」
「はい」
ルドベールはいつも煙管を吸っており、煙管から出る煙の色が黒のことから黒煙皇子と民衆から呼ばれている。ルドベールは第四皇子ということもあり、英傑な第一皇子、第三皇子には無能黒煙皇子と呼ばれている。
「では頑張り給え」
「はっ!ありがとうございます!」
(よっしょ、これで準備ができる)
ルドベールは無能ではなく、本当は英雄であり、英雄であることは隠していたのだ。煙管はをいつも吸っているのは体がその力に耐えれなくなることが多かったからだ。14歳となった今なら数日程度なら吸わなくて大丈夫になった。煙管から黒煙がでるのは闇の力を持っているからである。
(クリーム村のところを本拠地として戦いに備えないとな、ディルが攻めてくるからな)
ルドベールは事前にディル王国がポ・ゲール地区に兵を向けてくることを知っていたのだ。ルドベールは闇に関することなら全部できるが中でも空間を扱うことに長けており、ディル王国内の情報は聞こえているのだ。そして真正面から勝てる戦いではないことも知っている。なにせ敵兵の数は1万で、こっちが連れていく兵士は100なのだから。絶望に思えるが幸運なことにポ・ゲール地区の人々はまだこちら側なのだ、工夫の仕様はある。さらに相手の総指揮官は軍事学校に通う前、ルドベールと同じ14歳のディル王族のディル・イーデンロンヌリの初陣なのだ、勝ちようはある。
早速ジソ皇国の皇都ジソエルドを出発した。100人の兵士を連れて。
この兵士たちは理由があり、普通の軍隊から外された。そこに気付いたルドベールはダークから許可をとり、護衛隊としている。
「皇子、なにをしに行くんですか?」
皇都の城壁を出たあたりで一番近くにいた兵士マークリンことリンが話かけてくる。護衛隊の中でも古参であり、年はルドベールと変わらない。
「戦いだ」
俺は淡々と伝える。100人しかいないので一瞬で広がる。みんな驚きを表している。
「冗談ですよね?皇子」
「冗談だと思うか?リン」
「ほんとのやつじゃないですか」
リンが本当のことだとわかった瞬間、他の兵士たちも本当のことだと気付き始める。
「毎回、思うのですが」
「なんだ?」
「私たちいつも走ってますよね?」
「そうだな」
「皇子も走ってますし」
「ああ、馬を死なすのはな...父上が怒るんだ」
「では私たちは死んでもかまわないと?」
「正確には俺も含まれている」
ルドベールとリンの会話は兵士全員が聞いている。そのぐらい他の兵士同士話さない。
「...なにも言えません」
「そうだろう?」
「今から行くところはどこですか?」
「ポ・ゲール地区クリーム村だ」
「だいぶ遠いですね」
「6日もかかるな」
「馬よりも早い私たちすごいですね」
「ああ」
ルドベールと兵士たちが走っているのは道ではなく木々の間だ。馬を使わない利点ともいえるだろう。
夜になると水場の近くで野宿し、また町に近ければ宿に泊まった。
村に着くまで繰り返した。
「これはこれは、ルドベール様じゃないですか、視察ですか?」
クリーム村に到着するとクリーム村の村長ホイップがそう言う。兵士たちに広場に移動するように言う。
「そうだ、そして話したいことがある」
村長宅にある対話室に入った。
「なんでしょうか?」
「クリーム村、クロド村、ソ村は盆地の上にあることは知っているな?」
「はい、もちろんです」
「ディル軍がこの盆地に攻めてくるだろう」
「本当ですか!」
ホイップは予想していなかったのか驚いている。どこまで考えてないのか。宣戦布告して1年経つがディル軍は進攻せず、ジソ軍が東側をせめているので対処をしていたので北側は関係ないと思ってしまっているんだろう。
「ああ、でももし負けて死ぬなら連れてきた100兵士と私でいい、だから盆地の上にある村人全員を山を少し開けたところにあるミミ村かセリム村に移動していてほしんだ」
「はい、でも私たちが裏切ると思わないんですか?」
裏切ってもおかしくはないがそう無意味だ。
「私がここに来た時点で時間切れなのだ、あと3日ほどすればディル軍は来る。裏切りがでようとも村の金品、女は強奪されてもおかしくはない、ディル王族がいくら光を司る一族だとしても兵士は関係ない、強奪しないのはディル王族に忠義を示している者ぐらいだ、今回はそんな者はいないんだ」
(総指揮官は王族だから忠義を示している者ぐらい来る、でも黙っておかないと裏切り者がでてしまう)
「ルドベール様がこの国を裏切ればなんとかできるんじゃないでしょうか?」
(確かにそうだ、俺は無能と言われていても皇族、捕虜になるだけ、でも...)
「裏切れない、今は。唐突だが私には夢がある」
村長宅を出て、兵士がたむろしている広場に向かう。村長も訳が分からないままついてくる。
兵士たちはルドベールを見るとすぐに並び、武器を装備する。
「武装は解除だ」
兵士たちはその場に武器を落とす。
「私の夢はここで散ることではない、父のようにこの国の皇帝となることでもない、今は学校に行くことが夢である!確かに学校?となるかもしれない、あと一年すればジソ皇国の学校に入るだろう、それではだめだ、私はディル王国の学校に行きたい!私は世界を見たい!だがこのまま流れに任せては私はその夢は叶わない。正直、私は捕虜になる可能性が高い、捕虜になれば学校に通うことなぞ無理に決まっているだからだ!だがこれは私の夢であり、押しつけにしか過ぎない、だからこの戦い勝ってこの地区を非武装地域にしてみせる、この地区に平和を与える!」
そう宣言して、俺は他の村にも向かっていく。護衛もつけずに。
他の4つの村長と話し合い、クリーム村、クロド村、ソ村の村人全員が避難すること約束し、さらにセリム村にとあることをお願いした。
「皇子、お帰りなさいませ」
クリーム村の広場には兵士たちがいろいろと動いている。早速避難する村人の手伝い、村周辺の道の整備などをしていた。
「それでどうだ?」
「はい、この盆地に来れる道を狭くし、相手の軍が最大横二列になるようにしました。クロド村からクリーム村に来るまでの道の整備をしています、さらにクロド村から順にトーチカ式の大砲の設置とその大砲のカモフラージュをいたしいました、今は以上です」
「そうか」
(思っている以上に準備の進行が速い、何回もしているからか)
「リン」
「はい、報告に不満でもありますでしょうか?」
「いやそうじゃない、空を飛んでみたいか?」
「...はい!」
リンは明らかに喜んでいる。リンは悩んでいる時、暇な時に空を見上げていることは知っているがここまで露骨にわかるのか。
「コストの面で一機しか作れなかったが戦闘機を作った」
「戦闘機とはなんでしょうか?」
「簡単にいえば、空から爆弾を落とすことができるものだ」
皇族、王族の力を使って戦うのがセオリーとされているので小銃や戦闘機などのアイデアはでているものの技術不足であり制作されていない。
兵の編成は槍、剣、盾、大砲、弓矢しかおらず、特別な力を使えない戦いでは数が勝敗を分けることが多かった。
「...今回の切り札ですか?」
ルドベールは当てられて少しにニヤッとする。
「ああ、そうだ、リン、君には大事な役割を与える、戦闘機を乗りこなし敵を一気に蹴散らすという役割だ、いけるか?」
「もちろんです!」
「ならばセリム村で飛び立つための道を作ってもらっている、時間的には今日の夜には終わるはずだ、明日練習するぞ」
「はい!」
「道の整備などはそのままでよい、作戦説明のため、兵士を夕食時集めるように」
「はっ!」
「では俺は仮眠をしてくる」
「はい」
ルドベールはクリーム村の宿に向かっていった。
「ルドベール様は?リン」
同じ護衛隊のルイカが話しかけてくる。
「仮眠だって、それと兵を夕食時、皇子のところに集合させて、作戦説明」
「わかった、これからクロド村の方に行くから伝えておくわ、話変わるけどルドベール様って無能じゃないよね?」
「うん、私も思う」
戦闘機を制作していたと言っていらっしゃったので絶対に無能ではない。
「それと私も早く皇子様見つけたいわ、リンはいいよね、皇子様を見つけれて」
「そんな関係にならないよ」
「リンがルドベール様と話すせいで他の女性兵士がルドベール様に話しかけずらくしているみたいだけど?」
...かれこれ5年以上いるんだ、好きになっても仕方ないよ。でも相手は皇子、叶いっこない。
「黙るのね、まぁ、ルドベール様は恋愛に疎そうだし、時間はありそうね、それじゃあ」
ルイカはクロド村に向かっていった。
ただ私は空を見上げた。