黒森の動物
シュンカはだいぶ無理をしているようだが、地図をもって先を歩く。
セイテツが「大丈夫か」、と声をかければ、えらく元気に「大丈夫です」としか返さない。
焼けていない森でようやくすこし『気』をとりもどしたように、「これは、なんという木なのですか?」と、セイテツを振り返った。
「シウンゴウっていうんだ。ほら、木の葉を触ってごらん」
言われたとおり、シュンカその濃い紫色の木の丸い葉に触れた。
「わ!やわらかくって、すごい気持ちいいです!あ、細かい毛が生えてる。なんだか、動物の毛を撫でているような感触で・・」
「その木の皮と葉が、『黒鹿』の食料になるんだよ。他の種類の木も食べられるらしいけど、そうすると、黒鹿たちの『力』が落ちるらしい」
「黒鹿は、『力』をもっているのですか?」
びっくりした大きな目は、ここに来るまでにあったことを思い起こしたようで、複雑な感情をあらわす。
「―― この、『黒森』のすべての動物たちは、役目を終えた天上のシモベたちがご先祖だって話がある。なにしろミカドが言うことだから、どこまで本当かはわからないけどね。 だけど、ここの者たちが役神に仕立てやすいのは、事実だよ。それに、あるていど歳をとった動物は、ミカドが自分の遣いとして天宮に囲うこともある」
「あ。じゃあ、よく、湯のみから飛び出してくる、あの蛙もそうなのですか?」
「ああ、そうだなあ。あのじいさんも、ながいこと遣われてるようだ」
そうこたえたとき、シュンカが、突然どさりと軽い音でその場に倒れた。
すぐに起き上がったが、そこからセイテツが抱え上げて歩くことにしたのだ。
後ろを歩く坊主はあいかわらずむっと黙ったままで、こどもを気遣うこともない。
ただ、ときおり、ビンに入れられたアシの様子をセイテツに確認する。
変わりがないことを告げれば、そのままだまりこむ。
まあ、坊主なりに子どもを気にしているのは、急に近づいて『蓋』を確かめるようにシュンカの頭を、ぽん、と叩くしぐさに現れているが、言葉はない。