このとおり
水盆からはケイテキの太い声がうたうように響く。
「 ―― こたびは、西の将軍このケイテキ付のホムラが、またしても誘惑に勝てず犯した禁術に、黒森の黒鹿、伍の宮の方々、果ては天帝までもにご迷惑を、おかけし、お詫びのしようもございませぬが、 これ、この通り ―― 」
引きつるような声を残し、ありえない速さで、ホムラが水の中へ引きずり込まれ、ケイテキが笑った。
「 ―― この世には、二度と出てこられぬ場所へと、放り出しましたゆえ、どうかご勘弁を。 ああ、伍の宮の皆様。このケイテキ、感謝しておりますぞ。 ミカドにお願い申しあげたとはいえ、皆様であの男をおびき寄せるための囮になってくださるとは。 ―― どうにもうちで持て余していた男でしてな。怪しい禁術を隠れて準備しているらしいのを問いただせば、今朝方、いきなり大暴れして軍隊を半分以上つぶして出て行かれ、まったく、 ―― 《恩を仇で返す》ような、汚い男。 いくら領土を増やしたいといっても、人間には、『分』というものがあるのに、すこしばかり『力』があったため、まどわされ、見失ったようだ。 ―― そうそう、この御礼は、天帝のほうへ献上させていただきましたぞ」
「おまえら、あと黒鹿に、黒森を西の領土からはずしてやったと伝えてこい」
ミカドの声に絵師は事をただそうとしたが、続いた言葉に言い返せない。
「―― 他の黒鹿はみなあの男に喰われたと、ちゃんと教えてやれよ。その喰った男を『退治』して、そのうえ森を西の将軍から『取り返してやった』と、しっかり伝えろ」
「・・・・・クソ猫」
セイテツの呟きが届いたのか、最後に猫の鳴き声がして、水面は静けさを取り戻した。
のぞきこんだ蛙も、わしも戻ろう、というのを絵師が呼び止めた。
「おい蛙、・・・ケイテキってのは、もしや、昔、土釜をやったという・・・」
「す、スザクさま!?」
絵師の疑問は、むこうでテングが木から下ろした坊主に気付いたシュンカの叫び声にまぎれ、 ―― 蛙は、なにも答えぬまま、水に消えた。




