惑わされたな
ホムラがうろたえるように寄り、不格好な手を水にかざせば、にやけた男の顔が現れた。
後ろには、玉座に胡坐をかくミカドもみえる。
セイテツも、驚いた。
「 ―― そ・・んな・・ばかな・・・」
「 ―― よお、ホムラ。 やりやがったな?」
土釜に落ちた男が、楽しげに問う。
「 お、おまえは誰だ! 誰かが写したのだろう!?」
「写す?いいや、ホムラ。 ―― おれが、本物のケイテキよ。 おまえとは、この五年で数度ほどしか会ったことはないがな」
「ばかな!では、あ、あれは?・・・『土釜』に、わたしの手とともに落ちた、あれは・・・」
将軍は、あわれむような微笑をのせた。
「ホムラよ。言ったはずだ。おれはな、自分以外を信じてねえんだよ。お前も、おれの『気』が、日によってずいぶんムラがあると感じただろう?当然だ。 『西の将軍ケイテキ』は、たくさん用意しておかねえとな ―― こんなときのために」
「そんな!?影武者だというのか?それは嘘だ! ―― ほかの人間ならば、あれほど『気』まで似通うはずがっ」
ホムラの声は、よく響く、太い笑い声にかき消された。
「 ―― なあ、ぼうず、『写し』ってのは、おまえみたいに札を使わずとも、できんだよ。 おまえは、表面に惑わされすぎだ。 世の中には、《見えないもん》がたくさんあんだぜ? ・・・むかし、どこかの子供に教えてやったんだがなあ・・・ ―― いい、隊長だったのに、残念だ」
「っつ!」
飛びのこうとしたホムラの顔を、水を突き破りのびた、鉤爪を持つ何かの手がわし掴む。
めきめきと音がし、ばきりと額の角が折れとぶ。




