『西の将軍付 ホムラ』
降り立ったのは黒い鱗に覆われた首の長い身体を持ち、羽毛のはねをもった風と雲の僕、アラシだった。
遅くなりました!と叫び、その背から降りたのは、シュンカだ。
ホムラの『気』がいっきに膨らむ。
「待てよ、ホムラ。 ―― 動けば、アラシがおまえを喰うぜ」
「天を預かるシモベが人を喰うなど、あるはずもない」
絵師へ冷ややかに答えるホムラに、アラシが低く喉奥を鳴らし言った。
「 きさま、《ミカドの領域》を、侵したな? 」
ミカドは人の領域に立ち入らぬ。
代わりに、人もミカドの領域に勝手に入ることは許されてはいない。
「ここに、天帝からのお達しがございます!」
シュンカが、捧げ持つ、水を張った盆に、ぴしゃり、と蛙がとびだす。
大臣たちのような仕立ての着物を身につけた蛙が水に立ち、小さな手を振った。
「 西の将軍付、元神官、ホムラ。―― おまえ、ミカドの宝物殿を、あさったな?」
「 ――――― 」
「愚か者よ。宝物殿は、ミカドの“くちだし”によって、出られぬ存神を入れておるのだぞ? あそこは、ミカドの領域じゃ。 よいか? よって、『西の将軍付ホムラをミカドに差し出す』」
「 そ、・・・いや、待て。そうか ――」
否定しかけたホムラが、裂けた口をゆがめた。
「 ――― そうだ。それは、『西の将軍付ホムラ』の仕業だわ」
「・・・認めるか?」
ぎょろ、と目を動かす蛙に、認めようという男の足が、ぐしゅぐしゅと音をたてて一気にカタチをもどす。
その場の『気』が、どろりとうねり、シュンカが、身をすくめる。




