七画の囲い
うねってのびあがるかたまりの表に、にょきりと黒い鹿の角がでる。
「・・・てめえ、黒鹿を」
むこうの枝から見下ろし、うっすらわらう男を、絵師はにらむ。
「黒鹿も、存神も妖物どもも、いい餌になったわ」
をおををおおおおおううううんん
火の粉を吐くそれが、泣きながら、まだ足りぬというように、周りから『気』を奪い取ってゆく。
ふらついた絵師を坊主が支えたとき、二人にむかって炎がはしった。
空に舞っていたテングのいくつかが、『力』を失いそのまま地に落ちる。
「ふん。空で結界をつくり、『土釜』に被せるつもりだったか? 残念だな!『テング』は天宮の守り神だが、人間に攻撃は許されぬからな。 ―― このわたしに手は出せまい」
空には、ヨクサが中途まで引いた線が光っている。
「―― さすが『テング』よ。七角の『囲い』とは、初めて目にした。――だが、それもそこまでだ」
「ほざけ。まだこれだけ残っていれば、『囲い』はできあがる。『土釜』さえ捕らえてしまえば、おまえなど、われ、ひとりでじゅうぶんだ!」
空で叫んだヨクサが大きくトッコを振れば、棍のように長くなる。
「 ! ! ! 」
印を口にのせて続きの線を引きはじめるテングを、ホムラはあざけるように見上げ、新しくつくられた右腕を上にむけた。
ぎゅじゅるるるるるる
音を発し、人の形であるそれが、恐ろしい速さでヨクサへ伸びる。
ぎりぎりでよけたヨクサのはねが、そらに舞う。
スザクは、刀を抜いた。




