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おとぎばなし ― 鬼哭(きこく) ―  作者: ぽすしち
鳴(なく)の章

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53/71

七画の囲い


 うねってのびあがるかたまりの表に、にょきりと黒い鹿の角がでる。


「・・・てめえ、黒鹿を」


 むこうの枝から見下ろし、うっすらわらう男を、絵師はにらむ。


「黒鹿も、存神たもつがみも妖物どもも、いい餌になったわ」



 


        をおををおおおおおううううんん




 火の粉を吐くそれが、泣きながら、まだ足りぬというように、周りから『気』を奪い取ってゆく。




 ふらついた絵師を坊主が支えたとき、二人にむかって炎がはしった。


 空に舞っていたテングのいくつかが、『力』を失いそのまま地に落ちる。




「ふん。空で結界をつくり、『土釜つちがま』に被せるつもりだったか? 残念だな!『テング』は天宮の守り神だが、人間に攻撃は許されぬからな。 ―― このわたしに手は出せまい」


 空には、ヨクサが中途まで引いた線が光っている。


「―― さすが『テング』よ。七角の『囲い』とは、初めて目にした。――だが、それもそこまでだ」




「ほざけ。まだこれだけ残っていれば、『囲い』はできあがる。『土釜』さえ捕らえてしまえば、おまえなど、われ、ひとりでじゅうぶんだ!」


 空で叫んだヨクサが大きくトッコを振れば、棍のように長くなる。


        

        「  !  !  ! 」



 シルシを口にのせて続きの線を引きはじめるテングを、ホムラはあざけるように見上げ、新しくつくられた右腕を上にむけた。

 


 ぎゅじゅるるるるるる



 音を発し、人の形であるそれが、恐ろしい速さでヨクサへ伸びる。


 ぎりぎりでよけたヨクサのはねが、そらに舞う。


 スザクは、刀を抜いた。



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