黒から出(い)でる
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『黒』から生まれたような男だと、ギョウトクはその男が闇から現れるときに感じる。
いや、正しくは、これは、その男の《写し》だが。
「これはまた、ホムラ殿。いかがなされました?」
「ギョウトク殿、ようやく山より降りられたか」
部屋の壁、隅にできた影。
そこから抜け出た男が、すごみのある笑顔をむけてくる。
「―― 愚僧とて、いまだ修行中の身でございますゆえ、そうやすやすと高山をおりるわけにはまいりませなんだ」
「ふん。その足のゆく先が、このようなチゴ遊びの場とは笑わせる」
「息抜きは、誰にでも必要でござりましょうて」
足元に寝転ぶ奴が羽織っていた着物を、腰に巻いただけの坊主は、くいっと猪口をかたむけた。
黒い男は鼻にシワをよせ、部屋に散らばった着物や徳利やら、湿ったままの褥をにらみ、むこうに抱き合ってねむる奴二人をみやってから、ギョウトクを見た。
「次の、餌はどうなっている?」
「ああ。それ・・・なんですがねえ・・」
まだ中身が残っていそうな徳利に手をのばす。傾け落ちた数滴をふりながら、坊主は笑ってしまった。