なんともねぇ
「いいか?落ち着けよ。おまえはただ、あのなきごえで、おかしくなっちまっただけだ」
「・・・・・ぁ・・」
「落ち着け。おいテツよ、シュンカがもどったぜ」
「―― みればわかるよ。シュンカ、・・・ゆっくり、手を開くんだ。そう、大丈夫。・・・くそ。こんなことに使われるとは、思ってもみなかったな」
血の気をなくすほど強くにぎられた子どもの指をゆっくりと開かせ、手の平から血にぬれた包丁をとりあげると、絵師は凍らせ砕き散らした。
リンを刺したその刃物は、四の宮の中で消えていたのだ。
それが、シュンカをとりこんだ『術』によって、子どもの手にいきなり現れた。
――― シュンカの手につく赤は、坊主の血だ。
「おいシュンカ、おれぁなんともねえぜ」
子どもに覆いかぶさっていた坊主が、ゆっくりと、その身体をおこす。
左肩には、着物の上からの刺し傷。
セイテツは、スザクに押さえ込まれるようにして横向きに倒れたシュンカを、そっと引き起こし、ふるえるそのからだをやさしく抱え込んだ。
「・・・もう、大丈夫だから」
シュンカがあのなきごえにとりこまれたのは、すぐにわかった。
坊主と約束したように、もっていかれまいと必死に耳を塞いだ手がとたんに力をなくし、
こちらの声に何の反応も見せないシュンカの懐が光ったと思ったら、セイテツの懐も同じように光り、アシを入れたビンとシュンカから飛び出た光がものすごい速さで夜空のむこうへ飛び去った。
スザクと、確認した方角へ ――。




