『あとが なかろう?』
「 これは、惑わしているのではないぞ。本当のことだ。 ――あのとき、このわたしにおとなしく捕まっていれば、皆、無事であったろうな 」
「・・・・・」
「 さあ、そんな無粋な刃物など放せ。 ―― ああ、おまえには、そちらのほうが似合っているな 」
手にしていた大振りの剣が、いつのまにやら、見たことのある、包丁へと変わっている。
「 そうだ。おまえがあの役神と共に働くときに使い、あの子犬を刺した、あの、刃だ。
おまえのせいで、四の宮のコウセン殿も、気の毒に。
『力』をつかうのをあれほど嫌がる大臣が、宮の『くち』を開いたと聞く 」
――― くち?
「 知らぬのか?コウセン殿は、天宮において罪人を処分する役を負うている。―――― おまえのせいで、何十年ぶりかで、人間を処分したのだ 」
「・・・しょ・・」
「 認めたか?おまえが、いかに、他の人間たちに災いをもたらすか 」
――― わざわい・・・
「 そうだ。おまえがいるだけで、だれかが災いを被らねばならぬ。 ――ああ、そうか。だから、それを持っているのだな? 」
手にした包丁が、ずしりと重みを増す。
「 あとが、なかろう? 」
『あとが、なかろう?』
黒い笠。 黒い着物。
闇に同化する男の、白い歯がみえた。
次の場面、自傷すれすれの場面となります。ご注意を




