本物めざし
「あ、アシ?」
「わたしの『力』では、どうにかシュンカをここに押しとどめるまでしか、できぬ。むこうはどうしても、おまえをもち帰ろうとしているのだ。はやく、自分の力で帰るんだ」
「でも、どうやって・・・」
見回せども、あたりは黒一色だ。
「惑わされるな。おまえはただ、本物のスザク様をめざせばいい。 さあ、早く ――さっき、寸前で気付いたように、おまえの知るあの方をさがせ」
「でも、・・・あ、アシは?」
その姿は、刻々と黒に溶けて消え続ける。
また、 ―― 消える。
思わずのばした手を、相手がつかみ、抱き寄せられた。
「 ―――わたしは、幸せだ。最後にこうして、シュンカを守ることができて。 さあ、セイテツ様と本物のスザク様が、おまえを待っている」
今度は、突き飛ばすように離された。
「 シュンカいそげ! ここは あの男の 縄張りだ
あの 黒い ――― 男 の 」
ぐずり、と溶け消えたのを見届けて、とにかく走りだす。
※ ※
とつぜん、
足を引かれて勢いよく転んだ。
『 おまえ ずるがしこいな 』
「っ!?」
この言葉と重く暗い声は ――――。
『 もう忘れたか?おれだ 行方知れずになったカイよ 』
とたんに、身体が動かなくなる。
あのときを思い出し、脂汗がにじみだす。




