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思い出すだけで
『鳥』は、戻ってこなかった。
「 ―― だが、方向はもうわかる」
「ああ、このえげつねえほどのどぎつい『気』だ」
二人は一方向をみて、うなずいた。
『鳥』が、術を解かれたのを感じ取ったセイテツは、すぐにその場で休むことを決めた。
なにしろ、もう、方向はわかっているのだし、むこうから動く気配はないのだ。
――― あきらかに、こちらがむかうのを、待ちわびている。
あの、黒い男を思い浮かべた。
一度すれ違ったことのあるケイテキも、確かにかかわりあいたい類の人間ではない。
ないが、
―― あれはどう見ても、人間だった。
シュンカと出会ったとき、父親のリョウゲツを襲っていた男の声も気も、場違いな明るさと、抑えきれぬ喜びをにじませていた。
思い出すだけで、じわりと汗がでて、血がのぼる。
妖物を前にしたときのような、緊張と、興奮と ――――。
「テツ」
「っ、な、なんだよ?」
焚き火をぼうっとながめていたら、坊主によばれた。




