ビンにはアシが
ミカドのにやついた顔を思い浮かべ、懐のビンの中身を考えて、なんだか腹が立ってきた。
――― いや、本当は、・・・ミカドのせいってわけじゃあないんだが・・・。
わかってはいる。
アシには既に術が仕掛けられていたのだ。ここに来なくとも、いずれ同じようなことは起きていただろう。
それならば、ここに来るまでに術が動き出し、そのまま黒鹿に知恵を借りるほうが、たしかに話は早いが、あのミカドが、そんな思いやりのある気のまわし方をするとは思えないので、ただ単に、また天宮内で騒ぎが起こるのを避けたかっただけだろう。
セイテツさま、と小さく呼ぶ子をみれば、こちらの懐にあるビンをさわってよいかと聞いてきた。
ビンの中には、役神ではなくなってしまったアシがいる。
シュンカが手をあてるとビンの中を漂うかすみのようなものが、すこしばかり光る。
「さあ眠ろう。シュンカは育ち盛りなんだからさ」
こちらの胸元に子犬のように頭をすりつけたこどもは、ようやく深い眠りにおちた。
「 ―― おまえさ、もう少し声をかけてやればいいだろう?」
大きな背をみせる坊主は、先ほどからひくりとも動かずに起きている。