土釜(つちがま)を喰らう
「――どうぞ。これが、最後の段階となりまする」
脇にのいたホムラを押しのけるように、その『穴』の口を見ようとしたが、目にみえぬ硬い何かに手があたり、それ以上覗き込めない。
「ホムラ、この結界をはずせ」
「・・・できませぬ。はずせば、釜の中の火の粉も飛びますゆえ」
「かまわぬ。はずせ。 ―― おれはな、これを、『喰らわな』ければならぬ男だぞ」
不敵な笑いを浮かべ、橙色の熱に照らされたケイテキは、ぎらつく眼をホムラにむけた。
「どのようにして、これを喰う?」
「・・・ケイテキ様」
「なんだ?」
「これを喰えば、――人では、なくなりますぞ?」
「ほお・・・そうか、おもしろい。まさしく、おれが望んだものだ。おまえが言うほどのその『力』、早くおれによこせ」
せかすように、着物のあわせから腕をぬいた男はもろ肌をぬぐ。
「・・・さすれば、まず結界をはずしますゆえ、っ」
いきなり、ホムラの片腕をとりあげたケイテキが、着物の下帯で、自分の腕ときつく縛り始める。
「これで、おれだけこの『釜』に落とすなんざ出来ないだろ?」
「・・・あいかわらず、疑り深いお方だ」
「おまえが相手じゃ、なおさらだ。 ―― おれはなホムラ、自分以外の者を、いままで信用したことなどない」
「どうぞ、お好きに」
うっ血しそうなほどの強さで縛られた右腕は、それを確認する男の左腕とつながる。
ホムラは続きを話す。
「 ―― 『結界』がとれれば、釜の中の『モノ』が、のぞきこむケイテキ様めがけて伸び上がってまいります。それにおびえることなく、口を開けことができれば、それがすんなりと、体に入り込みます」
「なんだ?おのれから、喰われにくるのか?」
「ええ。そのかわり、一瞬でも怯めば、逆に喰われましょう」
はん、と西の将軍はわらう。
「そんなモンに、いちいちおびえていられるか。さあホムラ、釜をあけろ」
言われて結界を、一枚はずす。




