禁術の書
炭火のような赤色を中に閉じ込めて、ぬめりと沸き立つ表面に、ホムラがまんぞくげに笑いを浮かべたとき、待ちわびた男が来た。
「―――ようやく、出来たか?」
ひどく、くつろいだ着付けであらわれた西の将軍は、女と寝ていたのだろう。
水盆で呼び出した際、ずいぶんと乱れた『気』をもらしていたが、この将軍にはよくあることだ。
「―― お待たせいたしましたが、やはり、黒鹿で『気』の量が一気に膨れ上がりました。それに、 ―― どうやらこちらへ、伍の宮の者どもが向かっておりますので、あの子どもからも、『気』をとりあげましてございます」
「ほお、アレからか?どれ、土釜を見せてみろ」
着物の帯を直しながら、ケイテキはホムラの足元をのぞく。
この元神官に、その『禁術の書』を渡したとき、黒い男は手にしたそれをながめ、笑った。
―― これはまた、とんでもない術書を。
あらゆる生き物。妖物。『力』をもつ者。
それらを、生きたまま土に深く掘った『釜』の中にいれ、溶けてまじわりひとつのモノになるまで、待つ術だ。
『禁術』であるというこの《土釜》からできあがった『モノ』を喰らえば、たとえ『力』のない普通の人間にでも、神官や徳の高い坊主と同じほどの『力』が湧くという。
「 ――できるか?」
「 ――― 」
答えはなくとも、引き取っていらい初めてみせる、ホムラの笑い顔に、ケイテキの首の後ろが逆立った。




