もっていかれるな
坊主が、いつもの生意気な、にやけた顔をむけている。
シュンカがいつもの信頼しきった目をむけ、ほほえんでくる。
「―― ああ、・・・そうだなあ。ほんと、天宮一のお人よしな働き者だよなあ。おれたち、伍の宮のもんはさあ」
ちょっと、声がつまった男はそれをごまかすように先に社をでた。
「・・・あのな、シュンカ」
坊主はかかえた子の顔を、まじまじと、改めてみつめる。
驚いたことに、さきほどの子どもの一言に、己の中で、何かが《震え》た。
「あの、・・・す、ザクさま・・・?」
あまりに近くから坊主がのぞくので、その高い鼻梁がつきそうだと思ったシュンカは顔もあげられない。
「おい、シュンカ」
あらためてよばれ、「はいいい」とおかしな返事をした子どもの頭をなでようとした手は、考え直したように、うつむいた顔の横に添えられた。
「―― もっていかれるなよ」
普段の、命じるような響きとはちがう声がいいつけた。
「―――はい。・・・もって、いかれません・・」
シュンカは、泣きそうだった。
なんだかわからないが、 ――― こちらの頬をしっかりと支え、眼の奥をのぞきこんでくるスザクに、言いたくて、言えないことがある気がした。
眼の奥から何かが湧き出しそうで、あわてて顔をふせた。
「っつ!」
とたんに、なにかがシュンカをなでた。
先ほどまではまとわりつくだけだったそれが、じかに『触って』きた。
坊主がそれをたちきるように、背の刃をぬいた。
ざざざざざざ
さざめくようにおびえるように、 ―― なにかがしりぞく。
社の外ではセイテツが空を見上げ、懐から『紙』を放ったところだった。
たちまち紙は、『鳥』となってとんでゆく。
「追うぞ」
―――― 陽は、すでに傾きだしている。




