境(さかい)の写し
スザクが経を綴らないということは、それが効かぬということがわかっているのだ。
こんな『術』はみたことがないセイテツは、ずっと腹をたてている。
「 なんなのだ?こんな、人の『気』を狙う術など ――」
「テツ、落ち着けや」
「わかってる・・・わかって、いるんだが・・ちくしょお・・」
自分がまたゆがんだ『気』にのまれれば、坊主に抱えられて苦し気なシュンカに、よけいな『気』をつかわせることになる。
シュンカが倒れた場所に近付くにしたがい、こどもの顔色はいっそう白くなり、息が弱くなりはじめた。
それを感じても、坊主は急ぐことをしなかった。
気がせいている、セイテツが、耐えられないように抜いてゆく。
またしても、ゆがみに捕らえられそうな男は、ときおり思い出したように懐のふくらみを押さえ、息を整えた。
抱えた身体がついには『震え』はじめ、まとわりつくものが、《よろこび》震えだすのをスザクはかんじた。
着物のあわせをずっとにぎっているこどもが、かすれた声で、「あそこに・・・」と一点をみつめた。
「―― ちくしょう、そういうことか・・」
シュンカが見つめるそこに、『境』がある。
「テツ、あそこに、『境』があんぞ」
「なんだって?じゃあ、あの景色は、 ――」
「『写し』だ。 まんまとはまっちまった」
「そりゃおれのことだ。神官の術にはまるなんて、 ―― 笑えないよなあ」
そうわらってセイテツが放った氷塊で『境』が砕け、あたりの景色が砕け散った。




