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おとぎばなし ― 鬼哭(きこく) ―  作者: ぽすしち
吟(なく)の章

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20/71

言葉なくとも




 抱えたシュンカの息が、弱い。



  スザクは走らない。

  セイテツは、もどかしい。





 『大堀おおぼり』から黒森にもどったあと、渡された黒鹿の角を砕いてシュンカに飲ませた。


 スザクに抱えられながらそれを飲み下した子は、ようやく坊主との距離を意識したらしく、助けを求めるように絵師を見たが、大人二人から自分の『気』が失せている理由をきくと、ぐっと口をとじ、覚悟をきめたようにうなずいてみせた。


「―― おまえで、むこうをおびき寄せる」


 坊主のいつもの言葉にも、今度ばかりはセイテツはなにも言えなかった。


 スザクがおこったように振り向いて、続いていいかけるのに手をあげてみせた。

「わかってるよ。 ―― あそこだ」


 二人には、確かめなければならぬ場所がある。

 黒鹿に会う前、シュンカがいきなり倒れた場所を ―― 。






「―― なんで、あのとき、もっとあそこを調べなかったんだろ」

 自分に苛立つ絵師に、子どもを抱き上げた坊主は何も返さない。

 返さぬが、同意見であることが、その気配から察せられる。


 坊主が、―――珍しくも、苛立っている。


 スザクさま恐いお顔をなさっています、と弱い声が聞こえた。

 セイテツはわらって、そりゃ地顔だよ、と教えてやるが、いいことを思いついた。


「 ―― なら、シュンカ、おれにやったのと同じことをスザクにしてやってくれよ。この先、もしもってこともあるしな」


 頼めば子どもは、不思議な色の瞳で、自分を抱える男のいかつい顔をのぞきこむようにして、――― ぎゅう、と、それを抱え込んだ。


 ちょっと・・・・、絵師も、立ち止まってしまうほど、 言葉はなくても、『想い』があふれるその行動に、同じく止まった坊主が言葉をだす。


「・・・前が、見えねえ・・」


 そういいながらも、まるで、《こたえる》ように、坊主が大きな手をのばし、シュンカの頭を数度叩いた。 


  ―――それはもう、見たこともない、優しいしぐさで・・・。




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