言葉なくとも
抱えたシュンカの息が、弱い。
スザクは走らない。
セイテツは、もどかしい。
『大堀』から黒森にもどったあと、渡された黒鹿の角を砕いてシュンカに飲ませた。
スザクに抱えられながらそれを飲み下した子は、ようやく坊主との距離を意識したらしく、助けを求めるように絵師を見たが、大人二人から自分の『気』が失せている理由をきくと、ぐっと口をとじ、覚悟をきめたようにうなずいてみせた。
「―― おまえで、むこうをおびき寄せる」
坊主のいつもの言葉にも、今度ばかりはセイテツはなにも言えなかった。
スザクがおこったように振り向いて、続いていいかけるのに手をあげてみせた。
「わかってるよ。 ―― あそこだ」
二人には、確かめなければならぬ場所がある。
黒鹿に会う前、シュンカがいきなり倒れた場所を ―― 。
「―― なんで、あのとき、もっとあそこを調べなかったんだろ」
自分に苛立つ絵師に、子どもを抱き上げた坊主は何も返さない。
返さぬが、同意見であることが、その気配から察せられる。
坊主が、―――珍しくも、苛立っている。
スザクさま恐いお顔をなさっています、と弱い声が聞こえた。
セイテツはわらって、そりゃ地顔だよ、と教えてやるが、いいことを思いついた。
「 ―― なら、シュンカ、おれにやったのと同じことをスザクにしてやってくれよ。この先、もしもってこともあるしな」
頼めば子どもは、不思議な色の瞳で、自分を抱える男のいかつい顔をのぞきこむようにして、――― ぎゅう、と、それを抱え込んだ。
ちょっと・・・・、絵師も、立ち止まってしまうほど、 言葉はなくても、『想い』があふれるその行動に、同じく止まった坊主が言葉をだす。
「・・・前が、見えねえ・・」
そういいながらも、まるで、《こたえる》ように、坊主が大きな手をのばし、シュンカの頭を数度叩いた。
―――それはもう、見たこともない、優しいしぐさで・・・。




