三日もなにも無い
申し訳ありません。『明滅』からのつづきとなっております・・・
――― 啾の章 ―――
ないている。
ひくく、ながく。
大気を震わせ伝わるそれが、木々の枝先までも、ゆするのだ。
ああ、かなしいのか。
くるしいのか。
くやしいのか。
ひくく、ながく、ひくく、ながく ――――。
「 ―― ほらシュンカ、顔拭いて」
「せ、セイテツさま・・?」
しがみついているそれが、どうやら男の着物だとわかったところで慌てて離した。
むかいあって横になるセイテツが、ほらほら、と取り出した手拭で顔をふいてくれる。
「――おい」
むこうから、坊主が声をかけたので、絵師はそちらへ半身をひねった。
「なんだ、起こしたか?」
「いや。・・・ないてるのが」
「すみません、おれが、」いつもうるさくて、というこどもに坊主は手をふり、まあいいや、とまたむこうをむいてねころがると、ひとりごとのように言った。
「―― シュンカじゃねえのが、ないてるみてえだ」
「おれは泣いてねえよ。 ―― ほらシュンカ。気にしないでもう一度眠ろう。明日で四日目だ。今度こそ、黒鹿に会えるさ」
絵師のその言葉にこどもより先に坊主が、どうだか、とこたえる。
「この三日、黒森ン中で『生き物』に遭うことがねえってのが、すでにおかしいじゃねえか。化け猫がおれたちを騙したか、黒鹿が、化け猫とかかわるのをとりやめたか、のどっちかだと思うぜ」
もっともなことを口にする。
「う~ん・・・いくらなんでも、それはないと・・・思いたいんだけどなあ」
・・ここに来るまでのことも考えると、という言葉はのみこみ、懐に収めたそのビンの感触を確かめた。
この森に、アシを捨てて来いなどと、化け猫に命じられていなかったなら、こんな結果はなかったかもしれない。