賞賛
――― 吟の章 ―――
ケイテキは、己を人間だと思っている。
実際、人間の親から生まれたのだから、人間なのだ。
その親の顔を知らなくともそれは確かだった。
いつからだ?
――― おまえは、人ではない!!
そんな言葉を、投げつけられるようになったのは?
「賞賛だ」
「・・・賞賛?」
「人間ではないと、罵られるのは、おれにとっては最高の褒め言葉だ。なぜなら、おれは、自分がまだ人間なのを知っている。 人の域を出ようと色々と試みてはいるのだが、簡単にはいかぬようだ。 ――― この前の、天宮。 おれはな、初めて心の底から、怖いと思った」
「・・・ケイテキ様が?」
「おれはな、ホムラ、この歳まで他の人間から怨まれ恐れられて西の将軍にまでのぼった男だ。人間の感情なら、どんなものでも見抜け、それを受けておのれの力に変える術をもっておる。いや、――お前のように、本物の術ではない。 これは、 人間の術だ。 わかるか?」
「・・・いえ・・。よくは、わかりませぬ」
「 ふ。そうか? おまえはそれでよい。―― おまえこそ、人の域をぬけた者だ。人間であるはずだが、既にそれをこえておる。・・・あの、天宮におったやつらのようにな」
「・・・・・」
「人は、刀を抜くときにそれなりの『気』を動かすはずだ。 なのに、あの男、まったく何も動かさなんだ。 気付いたときには、ほれ、ここをばっさりよ」
「他の髪も短くされ、もう、どこかわかりませぬ」
「女子に褒められた髪がなあ・・・。 まあ、髪だけで済み良かったと思えとな。最後に、女の大臣に言われたわ」
「・・・無礼な女でございますな」
「 ―― 黒森を、――― 焼け、 などと 言った覚えはないぞ。 ホムラ 」




