かえしてもらって
この『大堀』とよばれる池には、色街に住まう女たちが自分の願いを紙に書いて投げ入れれば叶うという習慣があるので、ホウロクがいうように、いちばん澱みやすい場所かもしれぬ。
それにしても ――――。
「 すくないだろ?これでみんなだよ 」
よまれることになれてきたセイテツが、焼けたのか?と問う。
「 焼けていないよ。 ―― とらえられたのさ 」
「誰に?」
―― いや、聞かずとも ―――
「 そうだよ。人間の勝手な約束ごとで、ぼく達の森は、西の領土になっている。だから、西の人間が、ぼくらに勝手なことをする。火を放ったと思ったら、次には矢を持って追いかけまわす。森は人間のものではないのに、やりたいほうだいだ 」
黒鹿の長が、はじめていらだった声をだす。
「ミカドはなんと?おれたちには黒森をもどしてお前たちがまた住めるようにしてこいと・・」
「 ああ、だって、きみたちが、勝手な人間どもを、黒森に入れないようにしてくれると聞いた 」
「な ――――・・おれたちが?いや、森をもどすというのは、木々や草花をもどすということだろう?」
だから、わざわざシュンカに ―――。
「 木々や草花は、すぐにまた、みずから生き返る。ミカドの話では、ずいぶんと『力』の強い子どもがいるので、それを『餌』にして、ぼくらの仲間をとらえた人間を、坊主と神官がおびきだすときいた。 できれば仲間をかえしてもらってくれ 」
「お、おれたちで!?ちょ、ちょっと待て!しかも、シュンカを? ―― 」
あまりなことで、絵師は坊主に抱えられる寝顔を目に、言葉を続けられない。
「 なんだ?・・・ああ、なにやら色々かかえた子どもらしいな。だが、それがどうした?ミカドはその子どもに黒森のことを『頼んだ』はずだ 」
―― 確かに、ミカドは口にした。
「 大臣たちは人間じゃないから動かせない。ミカドが頼れるのは、きみたちだけなんだよ 」
―― 頼る?あの、天帝が、おれたちを?
「 黒森が焼けてセリを寄越したのは、セリとぼく達が友達だからじゃないよ。『黒森』が、この世において大事な場所だからだ 」
――― いや、天帝はいつものようにおれたちを嵌めただけだ。
「・・・だからって、シュンカにこれ以上、」
「――おい黒鹿、おまえ、どうして人の型になりやがった?」
割って入ったスザクの声に、セイテツも改めてホウロクと他の黒鹿を見比べる。
腕を組んだ長が、うっすらと笑い、とりあえずシュンカを置いたら?と草と布が重なった隅をさし、腰をすえることにした。




