大堀のオオシマ
抱えられたシュンカが小さな息をもらすと、こてん、と頭を男に預けた。
「 あらま。耐えられなかったか 」
気を失った子どもをのぞきこみ軽く言う『黒鹿』に、セイテツが口をひらきかければ、ずい、とスザクが前にでる。
「よこせ。おれの従者だ」
面白そうに見た黒鹿が、それでも黙って子どもを坊主に渡す。
そこからぐるりと丸く歩いて立ち止まり、さっと片手をあげた。
「 では、はいりまーす 」
にこやかな男の声とともに、上から下へとおろされた手により、開いたそこへと一瞬で、のみこまれる。
「――っ、な、なんだ? ここって・・・まさか・・」
黒鹿に招き入れられたそこから見えるのは、セイテツがよく見知った場所だった。
周りをかこむ緑色の水。そのむこうに見える街の大きな建物。
『ここ』は、下界の色街にある、《大堀》だ。
そしてその堀の中に浮く、『オオシマ』とよばれる、取り残されたような陸にいた。
「 この場所は、人間の『よどみ』が強いからね、つなげやすかったし、隠れるのにいい場所さ 」
ホウロクは、堀のまわりの人間からはぼくたちは見えないから、と堀端で釣りをする人間に手を振って見せた。
島の真ん中には空の社があり、先をゆく鹿の長が、雨風しのげて便利だよお、と入ると中で、かたまりになった黒い影が怯えたように、いっせいに身を起こした。
「 みんな、大丈夫。 この人間は、セリの仲間だ 」
からだを起こしてつぶらな瞳をむけるそれらは、セイテツが想像していた通りのただの黒鹿たちだった。
黒く、つややかな毛並みに、数頭は、大きさは違えど、ホウロクとおなじ角をもっている。




