黒鹿
呆れたこえでスザクは、言い放つ。
「テツ、おめえ、ただでさえアシを懐に抱えてんだ。そのうえシュンカ抱えてりゃあ、普段の『気』より強くなる。気をつけろよ」
「ああ、そうか。ならスザク、おまえシュンカを頼む」
「ああ?おれが?」
「い、いえ!セイテツさま!歩きます!おれ、歩けますから!」
自分のせいで、今度は絵師に悪い影響が出ると知った子どもは、本気で暴れだした。
ため息をついたセイテツは、しかたなくシュンカをおろす。
「落ち着いて、シュンカ。おれは平気だよ」
「で、でも」
「具合が悪いお前のほうが、心配だよ」
「平気です」
「そんなわけないだろ?」
「 そうだよ、足元だっておぼつかないんだ 」
「歩けます」
「無理だろう」
「 そうだぞ。そんな顔色で 」
「でも!セイテツさまが、」
「おれは、おまえを抱えてるほうが安心できるんだよ」
「 ふうん。そんなに抱き心地いいんだ? 」
「ああ、もちろ・・・――― 」
さきほどから、ごく自然に会話に加わっていた声に、ようやく気付く。
腕を組んでセイテツとシュンカを見比べる男は、見つめてきた二人に微笑み、そうだ、と身をのりだした。
「 それなら、ぼくがこうしてあげよう 」
シュンカを抱き上げた男を、離れてみていたスザクが言った。
「―― おい、黒鹿よお、ずいぶんと探したぜ」
シュンカを抱えた男が、そうかい、と角の生えた頭をかしげる。
左の角だけいやに短い。




