筆者は、夢を叶えたことがありません
ぼうっと、スマートフォンの画面を眺める。こんなに疲れているときでも、サービスは向こうからやってくる。そうして、お気に入りと言われたコンテンツの中から画面に映すものが決まる。
よく見る※VTuberの動画だ。流行りの曲を歌っている。歌手ほど上手くはないが、一生懸命であることが伝わってくる、そんな歌声だ。
説明欄を見てみる。「ずっと歌いたかった曲です!!!」 どうしてか、とても嫌な気分になって、説明欄を画面外に除ける。いや、どうしてか、ではない。本当は、ひどく羨ましかったのだ。やりたいことを、やっている人が。
どうしてもやりたいことがあったわけではない。しかし、ずっと、何かがくすぶっている感覚があった。そしてそれが、夢を諦めたことへの後悔であることに気づけないほど、幼くはなかった。
突然、歌声が途切れた。画面をなぞる指が、どこかにつかえてしまったのか、見たこともないキャラクターが映し出されていた。
「『VTuberになるのが夢です』っていうやついるけどさぁ、イミわかんないんだよな。だってさ、なれるやん。本気で、やろう! ってやってんなら、なれるよ、誰でも」
ただスマートフォンが、音声と映像を流していた。コメントが一つ投稿されたのが見えた。
「『視聴者数みてみ』って、余計なお世話や!」
視聴者数は6人だった。思わず、わらった。
「夢を叶えるっていうのは、★『こういうこと』なんだよ」
画面の中のキャラクターもわらった。
※VTuber: Virtual YouTuber。仮想のキャラクターを操作して、動画などのコンテンツをインターネット上に公開する活動を行う職業。もしくは、そのキャラクターか、それに従事する人。
問 ★「こういうこと」とはどういうことか、説明せよ。(回答欄:空白一行)