5.夕食前の試作品
「元々は硬くなったパンを美味しく食べるためのおやつで、とっても美味しいんですよ」
簡単に作り方を説明すると、二人ともこくこくと頷きながら聞いてくれた。
「バケットならここにあります」
「試作しましょう、試作は大事です」
ミギさんもヒダリさんも乗り気である。
ということで明日に備えて試作品を作ることにした。
用意するのはたまご、牛乳、砂糖、バター、そしてパン。
今回はバケットを使用する。
フレンチトーストというと食パンで作ったものを思い浮かべる人も多いと思う。また一晩寝かせるんじゃ……なんて思う人も。だがバケットで作ったフレンチトーストも美味しいし、なにより時短になる。
バケットだと空洞がある分、吸い込むのが早いのだ。
本当は数日置いて乾燥したバケットの方がよく染み込むのだが、魔王城にそんなものはない。今日の朝に焼いてくれたものを使用する。
たまご、牛乳、砂糖を混ぜて卵液を作る。それに程よい厚さに切ったバケットを浸す。
欲張って分厚くすると染み込みが遅くなってしまうので、いっぱい食べたい場合は素直に数を増やした方が良い。
バケットの厚さにもよるが、早ければ一時間くらいで染み込む。
そのうちにフレンチトーストにトッピングするものを用意しておく。今回はりんごのコンポートとアイスクリームを用意するつもりだ。
「アイスクリームも載せるのですか」
「とっても豪華ですね」
りんごのコンポートをささっと作って、アイスクリーム作りに取り掛かる。
こちらも慣れたものだ。アイスクリームは余ったら魔王様とタイランさんにも出せば良いと三人でせっせと練っていく。
バケットに卵液がしっかりと染み込んだら、熱したフライパンにバターを塗って焼くだけ。
火が通り、焼き目がついたらお皿に移してトッピングしたら完成だ。
三人分のフレンチトーストを皿に盛り付ける。夕食も控えているので一人二切れずつ。
振り返れば二人がティーポットとティーカップを用意していた。
「紅茶の準備は出来ています」
「早速隣に行って食べましょう」
準備は万端。
トレイに載せて移動しようとした時のことだった。
「我に隠れて美味しそうなものを食べようとしているとは何事か」
「まさか明日のおやつを聞きに来たらおやつを食べようとしているとはな」
キッチンを出た途端、じっとりとした目をした魔王様とタイランさんが待っていた。
二人は私達がキッチンでおやつ作りをしていた光景をバッチリ見ていたようだ。ずるいずるいとその目が訴えている。
「えっとこれは明日のおやつの試作品で……。アイスクリームは後でお二人にも出す予定でして……」
「美味しそうなものを内緒で食べるのはずるい」
「アイスクリームだけで誤魔化されるつもりはないぞ」
魔王様もタイランさんも一向に引いてくれる様子はない。食べたいという欲がヒシヒシと伝わってくる。
諦めてミギさんとヒダリさんに視線を送る。すると二人同時に口を開いた。
「五人分に分けましょう」
「……すみません」
「代わりにアイスは沢山食べたいです」
「りんごのコンポートも」
「それはもちろん!」
ミギさんとヒダリさんの言葉に魔王様は爛々と目を輝かせる。
「食べられるのか!?」
「特別ですよ?」
「やったぁ!」
「分けるのは俺も手伝おう」
魔王様は大喜びで隣の部屋に駆けていく。そしてタイランさんはミギさんとヒダリさんと共にキッチンへと戻っていった。
アイスクリームもりんごのコンポートも冷蔵庫に一時保管してあるので、三人に任せてしまっても大丈夫だろう。
私は追加のお茶を用意して、魔王様の待つ隣の部屋へと向かう。
すると一人で広い席についている魔王様はもちもちほっぺを両手で押さえて夢心地だった。
「おやつがいっぱい食べられるなんて、今日はいい日だな」
ほおっと息を吐き、幸せを噛み締めている。魔王様があんまりにも幸せそうだから私まで嬉しくなる。
可愛らしい魔王様を眺めていると、三人がお皿と食器を持ってやってきた。
どのお皿にもアイスクリームがこんもりと載っている。アイスクリームはタイランさんの担当だったのだろう。一目で分かった。
「お待たせしました」
「出来ましたよ」
「アイスもりんごのコンポートも山盛りだぞ」
三人が持ってきてくれたフレンチトーストを受け取り、五人で並んで本日二度目のおやつを食べる。元々六切れ作ったので一人一つで、魔王様だけ二つ。
試作品の意味はなくなってしまったが、これはこれでいいような気がした。
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