3.トマトジュースはおやつですか?
「ポップコーンも美味いが、またトマトが食べたい」
今日もおやつのポップコーンを持っていくと、魔王様はそう切り出した。
流石に五日連続のポップコーンには飽きたのか。それとも茹でトウモロコシと冷やしトマトは近くで出していたから思い出したのか。
「冷やしトマトですね」
「いや、今度は違うものが食べたい。コーンのようにトマトを使ったおやつはないのか?」
どうやら前者だったらしい。
これも美味しい。もっと欲しいと言いながらパクパク食べている。
それにしてもトマトのおやつか。パッと浮かぶものはない。
トマトというとピザやミネストローネ、焼きトマトにピクルスといった、食事やおつまみのイメージが強い。
こがしチーズにカットトマトを載せたものはパリパリとして美味しいのだが、やはりおつまみのイメージが強い。
夏場にたまに見かけるトマトのジュレならおやつに入れることも出来なくはない。
ただどうしてもオシャレなレストランの前菜で出てくるイメージが強い。
それを応用してトマトゼリーを作るとか? だがトマトのジュレはもちろん、トマトゼリーも作ったことがない。
丸々入れるのが正解なのか、カットして入れるのが正解なのか、ミキサーにかけるのが正解なのか。ミキサーに入れたとしたら濾さなきゃいけないと思う。
けれど自分の家でミキサーにかけたトマトジュースはあの口当たりがいいのだ。
市販のトマトジュースのサラサラ感もいいが、自宅で作ったものは満足感がある。小腹が空いた時やあまりお腹が空いていない朝に飲むと最高だった。
「でもトマトジュースじゃおやつにならないよね……」
ボソリと呟く。
すると魔王様がパッと顔を上げた。口の中にはポップコーンがたくさん入っている。魔王様はそれを飲み込むため、急いで口をモゴモゴと動かしている。
「ゆっくりで大丈夫ですからね」
「ん!」
そして紅茶をごくりとして、ぷはぁと一息つく。
「トマトにもジュースがあるのか? それは美味しいのか?」
「はい、美味しいですよ。結構ボリュームありますけど、たまに飲みたくなるんです」
「飲みたい! 明日はそれを作って欲しい」
「え、でもトマトジュースはおやつでは……」
「でも冷やしトマトはおやつだぞ?」
魔王様は不思議そうに首を傾げる。私は確かにそう伝えた。
それに魔王様の中ではホットサンドもおやつ認定されている。トマトジュースくらい今さらなのかもしれない。
「では明日お持ちしますね」
「うむ!」
タイランさんにはどうしよう。
さすがにトマトジュースだけでは……。
そう思い、タイランさんの分だけ別に作ろうかと思ったのだが、彼の反応は意外なものだった。
「明日はトマトジュースか。いいな。俺は甘めにしてくれ」
「いいんですか?」
「ああ。トマトは好きだからな」
そういえば冷やしトマトを出した際、文句を言いにきた彼の口元にはトマトを食べた跡が残っていた。
「大きめのカップで出して欲しい」
そんなリクエストまでされた。
魔王様もタイランさんも好物はあれど苦手なものはないのはありがたい。
タイランさんの分だけでなく、魔王様の分も砂糖を多めに入れることにしよう。
キッチンに戻り、ミギさんとヒダリさんに明日のおやつについて話す。といってもトマトをカットして砂糖と一緒にミキサーにかけるだけなのだが。
「トマトのジュース、ですか?」
二人はぱちくりと瞬きをしていた。ジュースをおやつとして出すとは思わなかったのだろう。それもジュースと言いつつ、使うのは野菜である。
今まで魔王様にとってジュースといえばオレンジジュース。それもたまに出される程度。そんな魔王様からのリクエストだったのも意外だったのだろう。だがすぐに受け入れてくれた。
「トマトはちょうど切らしているので買ってこなければ」
「魔王様の満足するものを見繕ってきます」
彼らはそういうや否や買い物の準備をし、人間界へと向かったのだった。
翌日。
彼らが買ってきてくれたトマトを使ったトマトジュースは魔王様とタイランさんから大好評だった。
大きなカップに二杯ずつ飲んで、それでもまだ飲みたいというので止めたほど。
魔王様はむぅっと頬を膨らましていた。だがその気持ちは良くわかる。
私もキッチンでミギさんとヒダリさんと一緒に飲んだのだが、前世で飲んだものよりも美味しかった。
「こんなに美味しいトマト、どこまで買いに行ってきたんですか?」
「以前買い付けに行った際、トマトの産地で有名なところを聞いたことがあったので、そこの農園に行ってきました」
「美味しいものが飲みたいですからね」
二人とも二杯目も飲んで大満足の様子だ。
声を揃えて「また買ってきます」と宣言したのだった。
書籍版『捨てられた聖女はお子さま魔王のおやつ係になりました2』が4/15頃発売します!電子版は本日から配信しているようで、紙の方も早いところだともう並んでいるかも?です。
最終巻でもある二巻は一巻よりも分厚く、390ページ越えの大ボリュームとなっております。そのほとんどが書き下ろしのストーリーで、Web版にあった部分もかなり手を加えてあります。
またWeb版と書籍版とでは違うラストを用意したので、Web版を読まれた方も是非お手にとっていただけると嬉しいです(*´ω`*)
番外編、書籍一巻と合わせてよろしくお願いします!!




