1.キャラメルを使ったおやつ
今日はミギさんとヒダリさんが買い付けに向かう日だ。
タイランさんの仕事が早めに終わったということで、いつもよりも早めの夕食を取った。
夕食は二人が用意してくれたので、温めて食べた。
ビーフシチューなんて前世ぶりだ。ほろほろとしたお肉がたまらず、二人で二回もおかわりをしてしまった。
パンも多めに用意してくれた分を食べきった。
二人で洗いものをして、タイランさんは部屋に戻った。私は明日のおやつを考えるためにキッチンに残る。食料庫も覗きながら何がいいかと考えていた。
「キャラメルを使ったおやつがいいよね」
中心に据えるのは魔王様の最近のお気に入り『キャラメル』である。
これを使ったおやつが作りたいと考えたところまでは良かったのだが、なかなか浮かばない。
全く案がない訳ではない。フロランタンやキャラメルナッツなんていいのではないかと思った。だがナッツ系は好みが分かれやすい。また歯にくっつきやすいのも難点だ。
もっと食べやすいものはないか。
飲み物でいいならキャラメルラテという手もあるが、飲み物だけ出せばおやつも欲しいとおねだりされそうだ。さてどうしたものか。腕を組んで考える。
「キャラメルのクッキーサンドが一番無難かな」
クッキーは今まで何度も出しているがどれも好評だ。いつも数種類まとめて出すので反応を見るにもちょうどいい。
そうと決まればどんな形にするか考えなくては。中身の見えないサンドなので、少し特徴的な形にした方がいいはずだ。
魔王城のキッチンにあるクッキー型を並べてどれにしようか考える。うんうんと唸って考えていると「ダイリさん」と声をかけられた。
「わっ、びっくりした」
「急に話しかけてしまってすみません」
「集中していたようで。何を見ていたのですか」
「明日のおやつはクッキーにしようと思って、クッキー型を見ていたんです」
ミギさんとヒダリさんだ。帰ってきていたらしい。
調理台の上には沢山の袋や食材が並んでいる。おかえりなさいと声をかけてから、クッキーの間に溶かしたキャラメルを塗ったおやつなのだと説明する。
「それは美味しそうですね」
「でも明日のおやつは決まってしまったのですね……」
落ち込んでいるような反応だ。
買い付けの際に何か美味しそうなおやつでも見つけたのだろうか。
「何か食べたいおやつがあればそちらを先に作りますよ。クッキーはいつでも作れますから」
「本当ですか!」
「私達はこれが食べたいのです」
彼らは紙袋から何かを取り出し、ずずいと私との距離を詰める。
少し驚いたが、彼らの手に握られている袋を受け取る。中を覗くと見覚えのあるものが入っていた。
「これは乾燥コーン……もしかしてポップコーン用のですか?」
「ポップコーンを知っているのですか!?」
「はい。以前食べた事があって」
といっても前世でのことだが。
魔王様のおやつにトウモロコシを出した際、ポップコーンが作れればと考えた。こちらの世界にもあったのか。
「熱を加えると白い花が咲くように膨らむのです」
「塩をかけると美味しいのです」
二人は買い付けの際に見つけて食べてきたそうだ。とても美味しいのだと熱弁してくれた。
ポップコーンがあるなら、クッキーサンド以外にもキャラメルのおやつが作れそうだ。
「キャラメルをかけても美味しいですよ」
「キャラメルを、ですか?」
「想像もつきません」
「明日、塩とキャラメルの二種類を作りますね。食べ比べてみてください」
「まさか二種類も食べられるなんて」
「楽しみです」
二人はご機嫌で買ってきたものの整理に取り掛かる。私も手伝い、三人で冷蔵庫と食料庫に食材を保管していった。
翌日。買って来てもらった乾燥トウモロコシの粒を使ってポップコーン作りに取り掛かる。
といってもポップコーン作りはとても簡単。
熱したフライパンにバターを敷き、トウモロコシの粒を入れる。蓋をして、フライパンを軽く振る。今回は膨らむところを見るため、ガラスの蓋を使った。なのでポンポンと弾けるところもばっちり見える。
「人間界で見たものと同じです」
「すごい。こんなに綺麗に」
「専用の、熱を加えるとこうやって膨らむトウモロコシさえあれば簡単ですよ」
膨らんだ粒をお皿に移し、お好みの味にすれば完成だ。今できたものは塩味にするので、ミギさんとヒダリさんセレクトの美味しい塩を軽くふるう。
そして二回目のポップコーンを作り始める。
前世ではアルミフライパンにポップコーン用の乾燥させたトウモロコシの種がすでに入っていて、そのまま火にかけることができるものもあった。また紙袋に入れて電子レンジで数分温めても出来るらしい。
私はフライパン派だったので使ったことがないが、案外上手くできるらしい。
少量封筒に入れて作って、オリーブオイルと塩をかければ酒のつまみになるのだと。前世の友人が教えてくれた。七味唐辛子もなかなか合うらしい。
私はお酒は飲まないので酒に合うかは分からないが、なんだか銀杏みたいだ。お父さんが封筒に入れて電子レンジで加熱をしていたと言ったら友人は固まっていた。
手軽なおつまみは全て制覇したつもりだったが、こんなに身近に良い情報を持っている人がいるとは思わなかったらしい。詳しく作り方を聞かれた。作り方といっても銀杏を封筒に入れて加熱してから、割って食べるだけなのだが。
その日から彼女のおつまみに銀杏が加わった。
日本酒に合うらしい。あまりにも手軽で美味しいので、ついつい食べ過ぎてしまうとぼやいていた。
それはさておき、二回目のポップコーンは一度皿に移す。
空になったフライパンを拭き、牛乳・砂糖・バターを入れて火にかける。ヘラで混ぜながらキャラメル色になったらそこに先ほどのポップコーンを投入。まんべんなく絡まるように混ぜたら完成だ。
軽くほぐしてから少しの間乾燥させると、ポップコーンに薄くコーティングされたキャラメルが乾くので手でも食べられるようになる。
「魔法を使っても?」
「はい、お願いします」
「乾燥から私達に任せてください」
二人は弱めの風魔法を使ってキャラメルを乾かしてくれた。これで手で食べられる。
二巻の予約が開始しております。
こちらはウェブ版の短編・連載版とはまた違った内容になっておりますので、すでにウェブ版をお楽しみくださった方も楽しめるお話になっているかなと思います。
また本作は二巻で完結しますので、一巻をまだ読まれていない方もこの機会に手に取っていただけると嬉しいです!




