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4.じゃぶじゃぶと

 今まで毛布やシーツを洗濯に出してこなかったのは単純に出すタイミングがなかっただけらしい。


 食事やおやつを取り始めてから定期的に休みを取るようになったとはいえ、タイランさんの休憩時間はバラバラだ。


 仮眠を取る時もある。彼はソファで寝るようなことはなく、仮眠だろうとベッドで寝るそうで、毛布やシーツがないと困るのだとか。


 悩んでいたのはこれから仕事をしようと思っていたから。

 計画では隙間時間でお昼寝をするつもりだったそう。その時に毛布がなくなるかも、と悩んで、仕事の方を明日にずらしたのだと教えてくれた。



 やはりタイランさんは魔王様に甘いのだ。



 タイランさんが毛布を、魔王様がシーツを抱える。子どもがお手伝いをしているようで微笑ましい。


「それでなんで急に洗濯するなんて言い出したんだ?」

「昨日、ダイリと掃除したら楽しかったのだ」

「そういえば王の間を掃除するとか言ってたな」

「王座もしっかり拭いたのだぞ。な、ダイリ?」

「はい。綺麗になりましたよね」


 そんなことを話しているうちに裏庭に到着した。

 すでに洗濯用の桶や洗剤は用意してある。また木にはピンとロープが張ってあり、今すぐにでも始められそうだ。


「じゃあ早速始めましょうか」

「うむ!」


 三人でしゃがみながら洗濯物をじゃぶじゃぶと洗っていく。


 シエルさんと一緒に洗濯した記憶はまだ新しい。だがあれは魔法の練習を兼ねていた。こうして誰かと並んで手洗いするのは久々だ。


 意外にもタイランさんも手慣れていて、魔王様を真ん中に挟む形で洗い方を伝えていく。


「同じところばかり擦っていると汚れがちゃんと落ちないぞ」

「初めは細かいところを気にするよりも、大きな束をもみ込んでいくイメージで全体を馴染ませるように洗うといいですよ」

「ふむ」


 ある程度洗い終わったら、魔王様の洗ったタオルの泡は私が落とす。

 代わりに魔王様は靴と靴下を脱いで桶に入る。そしてタイランさんの部屋からゲットしたシーツをふみふみと踏みつける。


 その隣の桶では同じようにタイランさんが毛布を踏み洗いしている。


「おおっ、これは楽しいな!」


 魔王様はキャッキャとはしゃぐ。手揉み洗いの時の何倍も楽しそうだ。


 タイランさんに細かい指示を受けながら踏む場所を変え、少しひっくり返してみたりを繰り返す。


 二人が洗濯している間に、すすぎを済ませたタオルを干していく。


「ダイリ、終わったぞ~」

「じゃあそれもすすぎましょうか」

「いや、さすがにこれは大変だろうから魔法で落としていく」

「魔法なら簡単だな」


 二人はそう告げると、スウッっと洗濯物を浮き上がらせて水で満たした桶の中に入れる。そして洗濯機のように渦を作ってしまった。


 この様子ならすぐにすすぎも終わることだろう。手洗いよりもすすぎ落としが少ない。

 何より、魔法が得意なタイランさんが教えてくれている。私の出る幕はなさそうだ。


「じゃあここはタイランさんと魔王様に任せていいですか?」

「ああ」

「私、おやつを取ってきますね」

「ゼリーか⁉」

「そうですよ」

「あの美味かったやつか……」


 タイランさんも魔王様も昨日を思い出して頬を緩める。

 二人揃って似たような顔をするなんてよほど気に入ったらしい。


「今日は違う味ですけどね。お腹が空いているようでしたらホットサンドも用意しますが、どうしますか?」

「なら、俺はたまごのがいい」

「トマト! 我はトマトが入っているのがいいぞ」

「はい。ちょっと待っててくださいね」


 キッチンに向かい、急いで三人分のホットサンドを作る。

 ゼリーとお茶も用意した。途中までワゴンに載せて、ゴロゴロと転がしていく。


 裏庭近くまで進むと待っていた二人がこちらへとやって来る。

 魔王様はホットサンドの乗ったお皿を、タイランさんはティーセットの乗ったトレイを持ってくれる。


 残されたゼリーは私が持っていくと、洗濯ロープにシーツと毛布が下がっていた。

 魔法で乾かすのは止めたようだ。洗濯物を抱えて引っ掛ける二人を想像して、ふふっと笑みがこぼれた。


「どうした?」

「楽しかったなって思って」

「我も楽しかったぞ」

「終わった気になるのは早いぞ。取り込んで畳むまでが洗濯だからな。今回は敷くところまでやってもらう」

「任せろ!」


 洗濯場の真ん前には敷物が敷かれている。私が離れていた間に用意してもらったらしい。

 そこに腰を降ろせば、すっかりとピクニック気分だ。


 視線の先では真っ白いシーツがそよそよと揺られている。


「ダイリ、タイラン、また一緒に洗濯しような」

「はい」

「まぁたまには気分転換にいいかもな」


 デザートのゼリーを食べながら、いつかの約束をする。


 いつか、と言ってもそう遠くはない未来。

 また桶を前に三人でじゃぶじゃぶと洗濯をするのだろう。


 魔法に慣れたら少しだけ不便だけど、その不便さだって二人と一緒なら楽しいものになるのだ。


番外編はこれにて終了となります(* ´ ▽ ` *)お付き合いいただきありがとうございました


書籍は書店さんの方に並べていただいているので、そちらも是非よろしくお願いします!

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