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3.洗濯物は

「確認も終わったことですし、りんご飴を取りに行きましょうか」


 魔王様に手を伸ばせば、目を輝かせながら握り返してくれる。

 繋いだ手をユラユラと揺らしながらキッチンへ行く。


 りんご飴を渡すと、魔王様は早速袋から出してかぶり付いた。左手は私と繋がったまま。

 お祭りの帰りの親子みたいだ。


「なぁ明日は何を洗うんだ?」

「そうですね……キッチンで使っているタオルなんてどうでしょう? あれなら手でもみ洗い出来ます」

「足は?」

「足で洗うのはシーツとかカーペットとか大きなもので、洗うのは大変なんですよ。それに私の部屋の分はシエルさんに頼んじゃってますし、他の部屋のも大体使用人が洗濯をしていますから」

「シーツがある場所なら、いいところを知ってるぞ」

「どこですか?」

「タイランの部屋だ」

「なるほど」


 私の部屋を含め、ほとんどの部屋には毎日清掃が入っている。


 ただしタイランさんの部屋は別。

 食事などの配膳などは頼んでいるが、細々とした掃除や洗濯などは断っているそうだ。というのも彼の部屋は研究に関するものが多く、人に弄られると困るのだとか。


 ローブ同様、部屋も布団も魔法で綺麗にしていると言っていた。

 だが掃除はともかく、洗濯はまとめて渡せばいいだけ。なのに彼は洗濯を拒み続けている。


 タイランさん自ら洗っているところも見たことがない。


「確かにタイランさんの部屋なら、シーツも毛布もありそうですね」


 それに事情を話せば分かってくれそうだ。

 上手くいかなかった時は魔法で洗うと説明して。それからシエルさんにも声をかけておけば……と脳内でピースをパチパチと組み合わせていく。


「明日の朝はタイランの部屋に行くぞ!」

「おやつを仕込んだら王の間にいきますね」

「うむ!」


 約束通り、朝からおやつを仕込む。今日のおやつもゼリーである。


 昨日とは違い、紅茶とイチゴの組み合わせにした。

 朝食を食べる前にこちらを用意したので、上に載せるゼリーはフォークで簡単にひっかいておく。再び冷蔵庫に入れた。


 洗濯ものが終わる頃には完成していることだろう。

 普段のおやつよりも早い時間になるが、魔王様はきっと疲れるだろうから、今日は特別。


 お腹が空いていたらホットサンドも作るつもりで、材料を用意してもらっている。



 最後に昨日使ったタオルを預かって、王の間へと向かう。

 そして準備万端な魔王様と一緒にタイランさんの部屋へと向かった。


「タイラ~ン、タイラン起きろ!」


 魔王様はドンドンと勢いよくノックをする。

 すると思いの外早く「ちょっと待ってろ」と仲から返事があった。遅れてタイランさんが顔を出す。


「朝から二人でどうした」

「シーツを取りに来たのだ!」

「は?」

「実はこれから私達で人間のやり方で洗濯をするつもりで、その際に足ふみ洗いをするためのシーツを提供して欲しいんです」


 事情を話せばタイランさんの眉間に皺が寄る。

 だが怒っているというよりも、何か悩んでいるような表情だ。


「タイランは洗濯に出していないからちょうどいいと思ってな。特別に毛布も洗ってやってもいいのだぞ?」

「人ので試すな。自分のシーツを洗濯しろ」

「我のは綺麗だ!」

「俺のシーツだって綺麗だ! 魔法をかけてある」


 そう主張するタイランさんだが、王の間だって一年に一度は掃除をするのだ。

 いくら魔法をかけているとはいえ、毎日使うシーツや毛布もたまには洗うべきではなかろうか。


 私達に提供せずとも、使用人に頼むとか。

 そう伝えようと口を開けば、魔王様はタイランさんのローブの裾をギュッと掴んだ。そしてゆさゆさと揺らす。


「我が綺麗にしてやると言っているのだから、早くシーツを出すのだ」


 洗濯する~と駄々を捏ねる魔王様は、前世のスーパーで見かける子供によく似ている。

 大体の子どもはおやつやジュースをねだっていた。だが今、魔王様がねだっているのはシーツと毛布である。


 魔王様はお洗濯する気満々で、すでに彼の中で洗濯物はタイランさんの寝具に絞られている。「出すまでここを退かんからな」とまで言い始めた。


「……分かった」

「なら!」

「ただし! 俺も洗濯する。乾いたらごわごわになっていたなんて目も当てられないからな」


 こうしてタイランさんも洗濯に参加することになった。


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