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5.充実していく図書館

 おやつの本は魔王様の元へ。魔導書はタイランさんが持ち帰った。


 私はタイランさんからもらった本を自室に置いてから、残された料理本を持ってキッチンへと向かう。ミギさんとヒダリさんにお土産の本を渡すためだ。


 予想通り、彼らはとても喜んでくれた。

 本を置く棚を作ってもらおう! その棚をどこに置くか、と早速二人で会議を始めた。


 当分の間、おやつ会議の時間にこれらの料理講座が入ることだろう。私もある程度予習しておかねば。


 その日の夜、魔王様は私の部屋を訪れた。

 すでにすべての本に目を通したらしい。通信機では伝えきれないからと、メモに書いて持ってきてくれたのだ。


「楽しみにしているからな」

 魔王様はそれだけ告げて、満面の笑みで去っていった。


 残されたメモにはおやつの名前が並んでいるだけではなく、どこが美味しそうだとかトッピングは多め・いちごが欲しいだとか感想や注文が書かれていた。


 本を読みながら書いた姿を想像して微笑ましくなる。



 追加で購入したおやつの本は魔王様が読んだ後に、私とミギさんとヒダリさんが読み、図書館に所蔵されることになった。


 今まで集めてきた本とはまるで違う本に、オルペミーシアさんは衝撃を受けたようだ。新たな世界が広がったらしい。

 キラキラのおやつ以外が載った本も大量に買って来てくれるようになった。幅が広がったこともあり、一気に購入量が増えた。


 魔王様も後押しをするようにお金を出しているらしい。

 ただ短期間で増えすぎたせいか、収録されるレシピの重複が増えた。たまに同じ本も混じっている。


 レシピ本に限らず、長く愛されている本だと表紙が変わることがよくある。内容が少し変更になることも、ごくごくまれにある。それらを別の本として購入しているらしかった。


 だが今までほとんど借りられなかった料理本が、最近になって一気に貸出回数が増えたようなので、案外ちょうどいいのかもしれない。


 お城を歩いていると、使用人がレシピ本片手にこれはどういう意味なのかと尋ねてくることがある。人間の作ったレシピなのだから人間に聞いた方が正確だと思ってのことらしかった。


 とはいえ私にも分からないものは多い。特に専門性の高いものなんかはミギさんとヒダリさんに聞いてから答えることにしている。


 役に立てたり立てなかったりするのだが、お城の人達は楽しそうだ。


 シエルさんもおやつを食べたことにより、レシピ本に興味を持つようになった魔人の一人である。


 といっても本は眺める専門で、自分で作ろうと思うことはないらしい。それでも十分楽しいのだと、クッキーの瓶を大事そうに抱えながら教えてくれた。


 魔王城の人達のレシピ本需要は高く、いつの間にかキッチンだけではなく、図書館にも料理本の棚が出来ていたほど。


 自力で本を探すことがほとんどない私だが、オルペミーシアさんが案内してくれたのだ。

 本屋さんみたいなポップまで付いている。自分が選んできた本が受け入れられるのは嬉しいものだ。



 表情を緩ませながら廊下を歩いていると、足音が聞こえて来る。


 誰かが走っているようだ。だが大人にしては音が軽い。それに、一人の足音ではない。ズレていくつも聞こえる。中にはケルベロスの足音も混じっているようだ。


 子どもがケルベロスに追いかけられている?

 注意しないと、と廊下を曲がった時だった。


「ダイリちゃん、いた!」


 そこにいたのはケルベロスを従えた魔王様とメティちゃんだった。追い駆けられているどころか仲がよさそうだ。


 メティちゃんが隣にいてもみんないい子にしている。


「どうしたの?」

「どうした、ではないわ。何度も呼び出したというのに、一向に繋がらぬではないか。これでは通信機の意味がないだろう」


 魔王様はぷくうっと頬を膨らます。急いでポケットを探るが、いつもの膨らみがない。

 どうやら部屋に置いてきてしまったらしい。素直に謝罪する。


「すみません。部屋に置き忘れてしまって……」

「そんなことだと思って、ケルベロスに探らせたのだ」

「それで何があったんですか?」

「魔占花が咲いたから魔王様にご報告に来たの!」

「ダイリも植えるのを手伝ったと聞いたから、一緒に見に行こうと思ってな」

「え、でもあの花は咲くまで時間がかかるって」


 グウェイルさんによれば、最短でも寒期の次の雨期が完全に明けてから。長ければ一年近くかかるという話だった。今はまだ雨期にも入っていない。


 いくら何でも早すぎではないか。


「ダイリちゃんのおかげで早く咲いたの」

「私のおかげ?」


 メティちゃんははしゃぎながら教えてくれた。だが私がしたのは手伝いだけ。グウェイルさんの育て方が良かったのではないか。


「見た方が早いぞ」

「おじいちゃんが待っているから、早く行こう!」


 メティちゃんと魔王様に手を引かれ、ケルベロスは後ろからトコトコと着いてくる。


 例の曲がり角を花の置物の方に曲がり、裏庭へと向かう。


 すると花壇には見覚えのない花が咲いていた。おそらくあれが魔占花。綺麗な花だ。

 だがなぜか植えた場所全てに咲いている訳ではない。一部の、私が植えた場所にだけ花が咲いていた。


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