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4.家族

「料理ならコックが作るだろう?」

「作る料理に少し偏りがあるのを気にしているみたいで。最近、家庭料理とか郷土料理とかの作り方をよく聞かれるんですよ。だから余裕があるなら、本を何冊かプレゼントしたいなって」


 はじめはおやつにだけ興味を持っていたミギさんとヒダリさんだが、最近は家庭料理も知りたがるようになった。


 オルペミーシアさんがおやつの本と一緒に間違って家庭料理の本を買ってきたのがきっかけだった。


 野菜がたっぷりと入ったクリームシチューを見て「久々に食べたいな」と呟いたところ、興味に火が付いたのである。



 二人の料理は美味しいが、レパートリーに偏りがあることを未だに気にしていたらしい。ごく一般的な家庭料理や教会で出てきた慎ましやかな食事に興味津々だった。


 だが私が知っているのはあくまで我が家の量と味である。野菜はその時にある物で合いそうな物をポンポンと入れてしまうことも多く、量も目分量が多い。


 私は今までそれで困ったことはないのだが、二人は基準となるものがなく、不安そうだった。だが本なら正確な量が書かれているはず。少なくとも私の記憶よりはずっと確かだ。


「なら俺も一緒に選ぼう」

「何か食べたいものがあるんですか?」

「カボチャのポタージュ。芋が入ったやつ」

「ならこの辺りとかどうですか?」


 肩を並べて一緒に本を選ぶ。


 タイランさんが選ぶ本は芋やかぼちゃが表紙のものばかり。好きなのだろうか。彼が選んだものとジャンルが被らないように何冊か選んだ。


 おやつの本以外もまとめて買ってくれるという彼の言葉に甘えて本を託した。会計が終わった彼と二人で分担しながら本を持つ。


「どこか他に行きたいところがあれば寄るが」

「いえ、買いたいものは買えましたし、お坊っちゃまも待ってますから。早く帰りましょう」

「帰ったら早速本を見てあれが食べたいこれが食べたいとか言い出すんだろうな」

「さっきのタイランさんみたいに?」

「ああ」


 腹減った……と呟きながら、森を歩く。

 人の姿が見えなくなった頃、本屋さんで抱いた疑問を投げかけてみることにした。


「彼女と、聖女様と仲良いんですか?」

「ばあさんは師匠の姉で、家族みたいなもんだ」

「家族……」

「幼い頃は、一週間おきに師匠と教会に行った。ばあさんが忙しい時は会えないこともあったが、それでも毎月必ず会っていた。小言を言われることも多かったが、師匠はそれでも嬉しそうで。ばあさんは必ずおやつを作って待っていてくれた」


 タイランさんが頬を和らげて話す思い出は、彼にとっての幸せな記憶。オリヴィエ様もお師匠さんも彼にとって本当に大切な人なのだろう。


 自然と紡がれた『家族』という言葉に胸がじんわりと温かくなっていく。


「素敵な思い出ですね」

「ああ。この前作ってもらったアイスも、いつか三人で食べに来ようって話していた。ばあさんはあの場所から自由に出ることは出来ないけれど、それでもいつかって。その前に店はなくなったけど、幻じゃないって分かって嬉しかったんだ」

「また何度でも作りますよ。幻なんかじゃない。彼女が来たらみんなで一緒に食べましょう」


 お師匠さんはすでに亡くなっているらしく、タイランさんがかつて思い描いた光景を再現することは出来ない。


 それでもオリヴィエ様にも食べさせたいという願いは叶う。

 私が叶えてみせる。


 グッと拳を固めれば、タイランさんは小さく笑った。


「……ありがとう」


 それから転移陣があった場所に辿り着くまで、ひと言も発することはなかった。


 けれどタイランさんはいつか来る幸せを想像して優しく笑っていて、彼を横目で見ながら私もまた幸せに浸っていた。


 先ほど転移した場所まで戻るとタイランさんはその場にしゃがみこみ、ふいっと指を振る。すると消えた魔法陣が浮かび上がってくる。



 来たときと同じように一緒に魔法陣に入り、一瞬で魔王城へと帰還するのだった。



「帰ったか!」

「ただいま帰りました」


 魔王様はトトトと駆け寄ってくる。視線は本屋さんの袋に固定されている。よほど楽しみにしていたのだろう。


「お金、ありがとうございます。おかげでいっぱい買えました」

「我のおやつに変わるのだから安いものだ。それより買った本を早く見せてくれ!」


 戦利品を紙袋ごと手渡すと、魔王様は大事に抱えて王座へと戻った。レシピ本をペラペラとめくる彼の表情はキラキラと輝いていた。


 微笑ましい気持ちで眺めていると、横から本屋さんの袋が差し出された。


「ダイリ、やる」

「え?」

「ダイリが使いそうな魔法が書いてる本があったから」

「選んでくれたんですか?」

「いつもの礼だ」

「ありがとうございます。大事にしますね」

「ああ」


 タイランさんはそう言って目を逸らす。

 本屋さんで別行動をしていた時に選んでくれたようだった。


 ノートといい、魔導書といい、タイランさんは私がこの場所を去った後にも役立ちそうなものをくれる。自然と未来のことを考えてくれていることが嬉しかった。


 タイランさんは普段と変わらぬツンとした表情だが、髪に隠れた耳が少しだけ赤らんでいるのを私は見逃さなかった。


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