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1.おやつのレパートリー

「ふ~ふふ~ふ~ん~」

 図書館で借りたレシピ本を読みながら、今週のおやつの目星を付ける。

 美味しいそうなものや量が作れそうなものを組み合わせ、ミギさんとヒダリさんと話し合うのだ。


 必要な材料のチェックも忘れない。今までは五人だけだったのでさほど気にしていなかったが、食べる人が増えたことで材料の量も一気に増えた。


 使用人達にもおやつを配り始めたことで、おやつは福利厚生の一環になったそうだ。


 シエルさんから材料費は気にしなくて良い代わりに、他の使用人達におやつを配る頻度を増やしてほしいと言われた。


 この世界に福利厚生なるものがあったことにひどく驚かされたが、人事を担当している魔人さんとシエルさんが話し合って決めたそうだ。



 なんでも『おやつの聖女』の名前は魔王城に留まらず、魔界中に広がっているようでちょっとした噂になっているらしい。


 そこに目を付けた人事の人が新たな人材獲得に向けて動き出したのだ。


 これにより、私のお給料もちょっと増え、食料庫も広くなった。元々横の部屋が空き部屋だったそうで、すぐに壁を壊し始めた。


 部屋が広くなったことで品質保持の魔法をかけ直すこととなったのだが、魔王様はひょいっと指を振るだけだった。


 やはり魔王様の魔法は桁違いだ。タイランさんもこんなにあっさりと……と悔しがっていた。



 そんな訳で食料庫が広くなった訳だが、消費量が多くなったことには違いないので、使用する分は申請が必要となった。

 足りなくなったら買ってきてくれるそうだ。ちなみに小麦粉や砂糖など、日常的に使用するものはミギさんとヒダリさんが管理してくれるそうだ。



 本格的に魔王城の一員として組み込まれていっているな、と感じる。


「そろそろ作るおやつも変えたいな」


 現状、図書館にあるおやつの本はオルペミーシアさんによって選ばれた本がほとんど。

 最近では食べることに重点を置いてくれているとはいえ、やはり見た目が綺麗なおやつに偏りがある。



 他の書物と比べると、圧倒的に冊数も少なければ、種類の幅も狭い。


 魔王様からの「なるべくいろんなものが食べたい!」との要望を叶えるため、前世の知識を動員してみたり、いろいろ調べてみたりはしているものの、今のままではそろそろ限界が来そうだ。


 単純なおやつ作りの知識はまだまだ余裕があるのだが、食材とこの世界に関する知識が不足している。


 ミギさんとヒダリさんも知らない料理や食材が多いので、下手にこの食材って……と話題に出したら大変なことになる。


 存在すればいいが、存在しなかった場合、あとが大変だ。どこで知ったのか聞かれてしまう。


 前世の記憶があって、なんて信じてもらえるか怪しいことはなるべく黙っておきたい。


 そこをカバーしつつ、オルペミーシアさんに何と告げればいいのか悩み続けている。


「私が本屋さんに行ければいいんだけど、人間界に連れて行ってもらうのって大丈夫なのかな?」


 魔界に来てからしばらく経つが、今まで一度も人間界に帰っていない。


 なにせ手紙は毎回タイランさんに託しているし、ノートも同じように頼んでいる。服は魔王城で用意してもらったものと、オリヴィエ様が贈ってくださった物がある。


 食材も本も揃っていて、魔王城の人達との関係も良好。あちらに行く用事なんてなかった。


 いざ行きたいと思うと頭に浮かぶのは『生体反応』という謎の役割である。

 未だにこれが何を意味しているのか、自分がその役割を全う出来ているのかすら分からないまま。だが私が魔界にいる必要があることだけは分かる。



「タイランさんに言ったら反対されそうだけど……まぁ聞くだけ聞いてみるか」


 タイランさんはダメなことはダメと言ってくれる。

 詳しい理由までは教えてくれないこともあるが、それも何かしらの理由があるからこそ。理由もなく、拒絶することがないことはよく分かっている。


 それにこれは私だけの問題ではなく、魔王城全体のおやつ改革に関わる問題だ。私の独断でなかったことにしてしまうのは勿体ない。


 善は急げ、と本とノートを片付けて部屋を出る。

 そのまま王の間へと向かえば、タイランさんもまだそこにいた。


 研究に新たな視点が欲しいとかで、おやつが終わった後からずっと話し続けていたようだ。話が終わるのを待つ。



「待たせたな。それで、ダイリ。どうしたのだ?」

「実は、人間界の本屋さんに連れて行って欲しいのです」

「図書館の本ではダメなのか?」

「図書館の本も役に立ってはいるのですが、今よりももっと幅広いおやつを作るためにはやっぱり自分で見て、選びたいなと思いまして……」

「なるほど。我としても今より多くのおやつを食べられるのは嬉しい。だがタイランが許可するかどうか……」

「本を買うだけならいいぞ」

「いいんですか!?」


 正直、こんなにあっさり許可が出るとは思わなかった。

 私だけではなく、魔王様も驚いたようだ。本当にいいのか? と聞き直している。だがタイランさんはなんてことないように言葉を続ける。


「一回くらいならいいだろう。ただし二度目は約束できないし、変身魔法をかけることになるが」

「ありがとうございます!」


 他の人のフリをするなら、ということか。


 私も本が見られればいい。格好は気にしない。


 私とタイランさんが知り合ったのは魔王城に来てから。本来、接点すらなかった私達が一緒にいるところを見られたら都合が悪いのかもしれない。


 前回は完全に遊びだったが、本来はこういう時のための魔法なのだろう。


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