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35.使用人達もまた変わっていく

「ほらみんな、おやつだよ」

 おやつを掲げれば三頭のケルベロスが足下に集まってくる。


 この子達の餌付けにも慣れたものだ。

 彼らはおやつが載ったお皿を前に、爛々と目を輝かせる。


 けれど飛びかかってくることもなければ、私の周りをくるくる回ることもない。

 ピンっと背中を伸ばしながら『おすわり』をして、ちゃんとゴーサインを待っている。


「よし、いいよ」

「わふっ!」

 その言葉で一気におやつに食いついた。


 今日も元気でなによりだ。彼らのおかわりが入った容器を手に、ほのぼのと見守る。


 私もケルベロス達もいつも通り。何も変わらない。


 けれど背中にひしひしと視線を感じる。

 それも一つではない。複数の視線だ。


 魔王様とタイランさんが追加を欲しているのか。そう思って振り返る。


 けれど私の後ろに立っていたのは、魔王様でもタイランさんでもなく、かつて一緒に掃除をした使用人達だった。


 しかもなぜか私と目が合うとスッと逸らしてしまう。気のせいかと、私がケルベロスの方に向けばじいっとこちらを見始める。

 そんなことが何回も繰り返された。


 その異様さは、空腹から少しだけ解放されたケルベロス達も食事を止めるほどだ。


 やましいことでもあるのかもしれない、なんて無視することは出来なかった。気になる。凄く気になるのだ。


「どうしましたか」

「え、いや、別に……」

「何もなかったら長時間餌やりなんて見ませんよね?」


 気になるから話してくれと圧をかける。すると彼らは顔を見合わせた。言うか言うまいか迷っているようだ。


 しばらく視線を交わし、観念したように口を割ってくれた。


「俺達もそれ、食べたいなと思って」

「へ?」

「今まで魔王様や魔法使いさんしか食べていなかったでしょう? けど、ケルベロスも食べ始めて……。そうしたらなんだか羨ましくなっちゃって」

「いいなぁ、俺も食べたいなぁって思ったらついつい見ちゃって。でもおやつは魔王様への献上品だし、俺達が気軽に食べられるようなものでもないから……って、こんなこと言われても困るよな。忘れてくれ」


 彼らはそれだけ告げると、背中を丸めて去ってしまった。


 どうやらおやつに興味を持っているのはシエルさんだけではなかったらしい。そのことに驚いているうちに話が打ち切られてしまった。


 使用人達からすればおやつは献上品、いわば特別なものという認識らしい。だがそんなことはない。


 私は魔王様のおやつ係ではあるものの、特定の誰かに捧げるためだけに作っていた訳ではない。


 単純に食事をする相手に振る舞っていただけである。

 実際、私がミギさんとヒダリさん、オルペミーシアさんにおやつを振る舞っていると知った後も、魔王様から止めるように言われたことはない。


 自分にも作って欲しいと言うだけだ。多分、私が彼らのためにおやつを作ったところで止められることはないだろう。


 なら、私を『おやつの聖女』として受け入れてくれた彼らにも振る舞いたい。


 作るなら、何がいいか。

 餌やりを再開しながら、魔族にも受け入れてもらえるおやつとは何かを考える。


 やはり初めては魔王様と同じく甘芋の蒸しパン?

 だが魔王様と全く同じでは、彼らの中にある『おやつは献上品である』というイメージを取り消すことはできない。


 餌やりが終わってからもしばらく悩んでから、自分一人で答えを出すのを止めた。

 勉強中にお茶を持ってきてくれたシエルさんに意見を聞くことにしたのだ。


 彼女もまた最近おやつに興味を持ち始めた魔族である。共通点が多い人の意見として参考にさせてもらいたい。


「シエルさんは何がいいと思います?」

「食べ物に慣れていない魔人相手になりますから、小さくて気軽に食べられるようなものがいいかと。先ほど頂いたジャムクッキーはとても美味しかったです」

「明日も作るので、お裾分けしますね」

「是非!」


 食い気味な返事と共にかなり強い力で両手を握られる。どうやらシエルさんはジャムクッキーが相当気に入ったようだ。


 彼女には日頃から大変お世話になっている。偶然とはいえ、気に入ってもらえるものを贈ることが出来て良かった。


 ここまで喜んでもらえるとなると、ジャムクッキーがいい?

 だがジャムといっても、どの果物を使うかで味は全く異なるし、好き嫌いも分かれてしまう。


 そう考えると、初めはもっとシンプルなものがいいか。


 気軽に食べれて、シンプルなもの……。

 もう少し意見が欲しいところだ。そうだ、オルペミーシアさんの意見も聞いてみよう。



 もう外も暗くなっているが、まだいるかな。

 善は急げと図書館へと向かう。するといつもいる場所にはいなかったが、声をかければ休憩室からひょっとりと顔を出した。


「聖女さんが夜に来るなんて珍しい。どうしたの?」

「実はケルベロス達におやつをあげているのを見て、お城で働いている人達もおやつに興味を持ったらしいんです。だから彼らにもおやつを振る舞いたいと思っているのですが、はじめてのおやつに適したものがなかなか浮かばなくて……。こんな時間ではありますが、オルペミーシアさんの意見も聞かせてもらえませんか?」

「聖女さんは交流相手が多いから大量に作れるといいと思う。この前もらったクッキーやマカロンとかピッタリよね」


 シエルさんと似た意見だ。

 けれどオルペミーシアさんはそこでは終わらなかった。


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