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32.シエルとキラキラなおやつ

 りんごのお菓子は魔王様にも大好評で、このジャムクッキーもいずれおやつとして出すつもりだ。


 焼き上がったクッキーを冷やしてから、ジャムを載せる。ジャムの窓を作るためにくりぬいた部分でもジャムクッキーを作り、味を確認する。


「うん、美味しい」

 味はバッチリ。小さなジャムクッキーにミギさんとヒダリさんは喜んでくれた。


 魔王様とタイランさんもきっと喜んでくれる。だが、彼らとオルペミーシアさんとでは注目ポイントが違う。


 味か見た目か。加えて今回はキラキラ度も重要だ。


 作ってラッピングまでしたものの、果たしてこれはキラキラと言えるのか。自室に戻ってからもしばらく悩んでいる。


 自分用と彼女に渡す用を机に並べ、近くで見たり遠く離れてから見てみたり。私にはキラキラして見える。けれどいくら悩んだところで、人から見た基準など分からない。


 人に贈り物をする時は案外頭を使うものだ。特に好き嫌いや欲しいものの像がぼんやりとある場合は。

 魔王様とタイランさんは大体何でも喜んでくれるし、好きなものもわかりやすいのでありがたい。


 うーんと悩んでから、諦めて助けを求めることにした。


 一袋を手に取り、部屋を出る。今の時間ならきっとリネン室にいるはずだ。

 ドアを開けば、洗濯が終わったシーツを畳んでいた。


「シエルさん!」

 助けを求めたのはシエルさん。今の私にとって、一番身近な女性である。

 女性に贈り物をするなら女性の意見が欲しい。


 シエルさんとは一緒に洗濯をしてから一気に距離が縮まり、気軽に声をかけられるようになった。


「ダイリ様?」

「ちょっとお聞きしたいんですが、これ、キラキラに見えますか?」

 クッキーの入った袋をシエルさんに見せる。

 彼女はそれをじいっと見つめ、困ったように首を傾けた。


「キラキラ、ですか? 光沢はあり、可愛いとは思います。ですがキラキラかと聞かれると基準によるとしか……」

「ですよね」

 やはり私と同じところに行き着くか。迷っていないで渡してしまうのが一番なのだろうが、渡すなら喜んで欲しいという気持ちが邪魔をする。


 マカロンなら確実に喜んでもらえるのは分かっている。

 今からでも作り直すべきか。再び悩みのループに突入していると、シエルさんが不思議そうな目で見てくる。


「どうされたのですか?」

 そういえば理由を話していなかった。意見を聞きたいという気持ちが先走っていたのだ。遅れて事情を説明する。


「実はオルペミーシアさんに探してもらいたい本があるので、何か差し入れをしたいなと思っているんですが『キラキラなお菓子』に悩んでいて」

「ああ。それならきっと気にいると思いますよ。私でも食べたいと思いますから」

「シエルさん、お菓子食べるんですか!?」

「いえ、今まで食べたことはありません。けれどダイリ様が来てから少しずつ興味を持つようになりました」


 お世辞かもしれない。けれど自分の好きな物を、自分がきっかけで興味を持ってくれる人がいたとすれば、これほど嬉しいものはない。


 魔人は食事を必要としないことは知識だけではなく、この数ヶ月、自分の目で見て理解してきたからなおのこと。

 彼女の両手を掴むように袋を握らせる。


「良かったらこれ、食べてください!」

「ですがこれはオルペミーシアのために作った物では?」

「部屋にまだあるので大丈夫です。だから迷惑じゃなかったら……」


 強引すぎたかな。ゆっくりと手を離し、おずおずと顔色を確認する。シエルさんの口角は少しだけ上に上がっていた。


 クッキーの袋に注がれる視線もとても優しいものだ。

 迷惑ではなかった、と思う。


「ありがたく頂きますね」

 彼女の言葉をその通りに受け取ることにした。

 スキップしたい気持ちをグッとこらえて、部屋に戻る。そして机の上に置いてあった本とクッキーを手に、今度は図書館へと向かう。


 喜んでもらえるかどうか、なんて不安はすっかりと吹き飛んでしまった。



 大きなドアを開き、オルペミーシアさんを探す。

 ちょうど本を取りに向かっていたようで、私を見つけて上から降りてきてくれた。


「聖女さん、いらっしゃい」

「オルペミーシアさん、こんにちは。これ差し入れです。よかったら食べてください」


 ジャムクッキー入りの袋を渡すと、目をキラキラと輝かせた。胸の前で袋を抱える彼女は本当に嬉しそうだ。


「キラキラなお菓子! ありがとう!」

 角度を変えて楽しんだ後、大事そうにポケットにしまい込んだ。シエルさんの言葉通り、気に入ってもらえたようだ。


「それで今日は魔法道具についての本があれば借りたいなと思っているんですが」

「あるわ! すぐ持ってくるから待ってて」

 大きな羽根を使って、本の森の中へと飛んでいく。それから彼女は何冊かの本を持ってきてくれた。


 古い本が多い。だが損傷などは見られず、大事に使われていたことが伝わってくる。

 受け取りながら、私も傷つけないように気をつけようと心に刻む。だが本はそれだけではなかった。


「それからこれも良かったら」

 オルペミーシアさんは古い本とは別に、手提げ袋も持ってきていたのだ。中にはレシピ本が入っている。魔法道具の本とは正反対に、こちらは真新しい。


「実は一昨日、人間界に行って新しい本を買ってきたの。いつもはひと月くらい一人で独占しているけど、聖女さんに特別。だってあんなに綺麗なお菓子をくれたんだもの」


 どうやらジャムクッキーがかなり気に入ったらしい。本を返す時にまた持ってきてね、とおねだりまでされた。


 今度は別のジャムで作ろうかな。アプリコットやいちごのジャムだと色味も綺麗だ。

 タイランさんがまた違う果実を見てきてくれるそうなので、その果物がジャムに合いそうならそれで作るのもいいかもしれない。


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