27.毛布には回復付与魔法
「おーい、球根持ってきたぞ」
グウェイルさんの呼び方でタイランさんが立ち上がる。そしてこちらに手を伸ばした。
「ほら行くぞ」
彼の手に頼って立ち上がり、メティちゃんと手を繋いでグウェイルさんの元へと歩く。
持ってきてもらった球根の見た目は人間界のものと変わらない。私が花に詳しくないと言うのもあるが、チューリップの球根だと言われても普通に信じてしまいそうだ。
だが見た目はそうでも植えるまでの手順が全く異なる。
「ダイリちゃん、見ててね」
メティちゃんは一番小さな球根を受け取ると、両手で包み込んだ。そのまま手を口元へと持って行き、隙間からふうっと息を吹き込んだ。
「魔力を送り込むのか。なるほど、魔界の花らしい」
タイランさんはそう呟くとグウェイルさんから球根を二つ受け取った。
「ほら、ダイリも」
「ありがとうございます」
メティちゃんのお手本通りに息を吹き込んで行く。だが球根に変化はない。ちゃんと魔力を送り込めたのかは分からないそれを大きめのプランターに植えていく。
花が咲くまでの世話も少し特殊らしいが、こちらはグウェイルさんとメティちゃんがしてくれるらしい。
「どんな花が咲くかはお楽しみ! 咲いたらお知らせに行くね!」
ブンブンと手を振ってお見送りしてくれた。後片付けは任せ、私達は食器を下げるためにキッチンへと向かう。
「ダイリもケルベロスが気になるのか?」
「え?」
「さっき気にしてただろう。俺と一緒でいいなら夕方に行くか?」
「いいんですか!?」
「ああ。ただし襲いかかられた時のために何か食べ物を持っていけよ。危なくなったら声をかけるから、すぐに投げられるものがいい」
「そんなに危ないんですか?」
「まぁいざとなったら魔法でどうにかする。そのための同行だ。だから俺にもそれを作ってくれ」
タイランさんが『それ』と指差す先にあったのはタオルである。だが私にタオルを作る技術などない。これはシエルさんに用意してもらったものである。
「ならシエルさんを呼んで……」
「タオルはある。欲しいのは付与魔法の方だ」
「でもこれ、回復と強化の付与魔法がかかってるだけですよ? それに魔法ならタイランさんの方が上手いんじゃ……」
「ダイリのが一番効く」
「そ、そうですか……」
認めてもらえたみたいでなんか恥ずかしい。
顔を赤らめる私と違い、タイランさんは真顔である。少し疲れが滲んでいるが。
さすがに籠って仕事をした後に植え替えでは、かなり疲れているに違いない。深くは追求せず、コクリと頷いた。
キッチンに立寄って、簡単な食事を頼む。
タイランさんは飲み物だけ受け取った。このまま寝て、食事は起きたら摂るとのことだ。
朝食を用意してもらっている間にタイランさんの部屋に向かい、毛布に付与魔法をかけた。
タオルではなく、毛布にしたのはタイランさんたっての願いだ。部屋の前まで来てからやっぱりこっちにすると抱えて持ってきたのだ。これで熟睡できると喜んでいた。
付与魔法にそんな力があるとは……。
タイランさんと分かれてからキッチンへと戻り、作っておいてもらったオニオンスープとオムレツを食べる。パンは二つ。ジャムを塗って食べた。
満腹になると、ふわっと欠伸がこぼれた。
二人の好意に甘えて洗い物を託し、部屋へと戻ってシャワーを浴びる。
閉じかけた瞼に頑張ってもらいながら、自分の分の毛布にも付与魔法をかける。そしてようやく布団に入る。
すぐにやってきた初めの効果を感じながら、ゆっくりと沈むように眠りについていった。
「ふわぁああ、よく寝た」
大きな欠伸を噛み締めながら身体を起こす。
寝る前はもちろん、一昨日と比べても身体がスッキリしていた。これが付与魔法の真の効果か。もっと早く試してみれば良かった。
時計を見れば時間は昼過ぎ。
思っていたよりぐっすりと寝ていたらしい。おやつを準備するだけの時間が残っていて良かったと胸をなで下ろす。顔を洗って着替えてからキッチンへと向かう。遅めの昼食を摂ってからおやつ作りに取り掛かる。
今日のおやつはたまご蒸しパン。
タイランさんが籠ることは前から聞いていたので、仕事明けには好きな物を用意しようとリクエストを聞いておいたのだ。
部屋に持って帰る分も欲しいと言われているので、元々多めに作る予定だった。加えてケルベロスに投げる用も確保しなければならない。いろいろ考えて、前回の倍の量を作ることにした。
王の間に向かうと、タイランさんの姿があった。ケルベロスに会いに行くことを話しておいてくれたらしい。
「何かあったら遠慮なく我を呼ぶといい」
魔王様はそう言って、通信機を取り出した。
もらった時はこんな高価なものを……と気後れしていたが、今ではとてもお世話になっている。一度慣れてしまったら、なかった頃には戻れない。スマホと同じだ。
「俺がついてるから問題ないだろ」
「それもそうだな」
魔王様はタイランさんの言葉に頷き、専用の袋へと戻した。
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